ミニ・レビュー
2008年以降一躍ポップ・アイコンとなったシンガーの、ファースト作『ザ・フェイム』に新録8曲を加えた豪華盤。カイリー・ミノーグやマドンナ、グウェン・ステファニーを想わせる歌唱は強烈だが、センセーショナルだけではない問題提起を含む進取的な楽曲に注視すべき。
ガイドコメント
2008年、数々のチャートでトップを席巻したデビュー・アルバム『ザ・フェイム』に、独立したミニ・アルバム相当のディスクを追加し内容を一新。ファースト・シングル曲「バッド・ロマンス」を含む8曲を追加収録。
収録曲
[Disc 1]〈ザ・モンスター〉
01BAD ROMANCE
あなたと危ない恋がしたいと熱烈に求める、レッドワン制作のエレクトロ・ミッド。“ラー、ラー、アアアー”からはじまるフックは、ヨーロピアン・ポップの香りに満ちている。“歩くパッション、私は自由な女”と言い切る自信が、歌唱にもみなぎっている。
02ALEJANDRO
悲恋的なストリングスから幕を開けるレッドワン制作曲。自分を愛する男たちの名前を告げながら、彼らから離れていく恋多き女の物語。スパニッシュ・タッチの哀愁曲は、マドンナ「ラ・イス・ラ・ボニータ」を思わせる。ガガの歌唱も、ここでは奇抜さは皆無。
03MONSTER
タイトルの強烈さとは裏腹に、そこそこ淑やかな歌唱をみせるエレクトロ・ポップ・チューン。私のハートを食べたあの男はモンスターと、虜になってしまったプレイボーイについて歌う。制作のレッドワンやスペース・カウボーイがバック・ヴォーカルでも参加。
04SPEECHLESS
恋人からのショックな一言を聞いて、もう二度と誰も愛せないと落胆する女性の心情を歌う。ブルース・ロック調の雰囲気もチラリと垣間見せるミディアム・ポップは、ロン・フェアのプロデュース。諦観と願望を行き来する葛藤が伝わる曲だ。
05DANCE IN THE DARK
フェルナンド・ギャリバイ制作のユーロ・ポップ調ミッド。ミステリアスな幕開けや漆黒の夜を想わせる展開は、“ヴァンパイア”の世界観。男に“どうかしてる”と言われる女の本心を歌うが、それは自身へ奇異な視線を向ける人たちへのガガ流の回答なのかも。
06TELEPHONE
「ヴィデオ・フォン(リミックス)」で客演経験のあるビヨンセを迎えた、アクの強い二人の競演。カイリー・ミノーグ風のエレクトロ・ポップで、制作はロドニー・ジャーキンス。彼からのしつこい電話にうんざりする女性の気持ちを歌っている。
07SO HAPPY I COULD DIE
レッドワン、レディー・ガガ、スペース・カウボーイ制作のエレクトロ・ポップ。シンセを軸にしたクラブ・ミッドで、“エエ、エエ、イェハ、イェハ”のフックが耳に残る。傷ついた心を癒すには自身を慰めればいいと、鬱屈した心境を吐露する悲哀に満ちた歌だ。
08TEETH
私が欲しいのはあなたのセックスだけと男を誘うエロティックなナンバー。自身を“タフなビッチ”と言い切る潔さがガガらしい。詞の印象が強烈だが、ニュー・ジャック・スウィングの陰をちらつかせるテディ・ライリーの図太いサウンド・メイクも心を踊らせる。
[Disc 2]〈ザ・フェイム〉
01JUST DANCE
ガガ作品ではおなじみとなったレッドワン制作のエレクトロ・ポップ。何もかも忘れて踊り明かすわという内容で、コルビー・オドニスがプレイボーイを気取って顔を出すも、ガガの迫力の前ではたじたじか。バック・ヴォーカルでエイコンも参加。
02LOVEGAME
レッドワン制作のシンセ・エレクトロ。“ハッ”という掛け声とあなたのディスコ“スティック”でイっちゃいたいという抑揚あるフロウが魅力。恋の駆け引きがテーマだが、愛、名声どちらが欲しい? という問いかけにこそ、ガガの本音が見え隠れしている。
03PAPARAZZI
自分のものになるまで追いかけ尽くすと、狙った男への欲情をパパラッチにたとえたロブ・フサーリ制作曲。過激なタイトルとは裏腹に、落ち着きのあるメロディと歌唱で展開していく。それがかえって覚悟が据わっているようで、怖さを感じるかも。
04POKER FACE
米英1位を獲得したレッドワン制作曲。男を操る恋のハウ・トゥをポーカーにたとえた、“パパパ、ポーカーフェイス”“マママ、マー”の男女の掛け合いが中毒になるエレクトロ・ポップだ。得意げな顔が浮かぶ、ガガのノリのいい歌唱にやられてしまう。
05I LIKE IT ROUGH
マーティン・キールセンバウム制作のミディアム・ポップ。“荒々しい男が気に入ってるの”と無神経に近寄る男を突き放す歌で、私を愛することはパールを舐めたりパーマをストレートにするのと一緒だと、ガガ流に表現。だが、歌唱はどことなくはかなげだ。
06EH, EH (NOTHING ELSE I CAN SAY)
マーティン・キールセンバウム制作のカラフルなエレクトロ・ポップ。ガガのイメージらしからぬキュートなサウンド・メイクが特色。長く付き合った彼に“新しい彼を見つけたから”と告げる展開を“チェリー、チェリー、ボン、ボン”と片付けるところはさすが。
07STARSTRUCK
マーティン・キールセンバウムとスペース・カウボーイ共作の、宇宙色の強いエレクトロ・ハウス調ミッド。テーマは、スターにハートを奪われたというダンスフロアでのラヴ・アフェア。フロー・ライダーが勇んでフロウをかますが、存在感はガガの判定勝ちか。
08BEAUTIFUL, DIRTY, RICH
ローファイな“ビューティフル、ダーティー、リッチ……”のフックが耳を引くエレクトロ・ファンク。ドラムが弾けるノリのいいサウンドに乗せ、パーティ好きのパーティ女(=ガガ?)について歌う。衝撃的な鍵盤も強い印象を残す。制作はロブ・フサーリ。
09THE FAME
自らを物欲の固まりと言い切り、十代の頃の夢を叶えるわと宣言する自己顕示ソング。明快なギター・リフとクラップを組み込んだファンク・ロック調で、制作はマーティン・キールセンバウム。軽快な歌唱は、勢いに乗るガガそのものを体現しているようだ。
10MONEY HONEY
レッドワン制作の、うねりのある太いボトムが特色のクラブ・エレクトロ。マネーが私の恋人だとこともなげに発するが、“(マネーは)いつまでも幸せにはしてくれない”とポロッと口にするあたり、スキャンダラスな女を演じる戦略家の一面が見え隠れ。
11BOYS BOYS BOYS
モトリー・クルー「ガールズ・ガールズ・ガールズ」へのアンサー・ソングという、レッドワン制作のエレクトロ・ポップ。爽快な旋律に乗せて好みの男について語るが、最後に“君みたいな男の子は私に惚れるから気をつけな”と上目線で締めるのが彼女らしい。
12PAPER GANGSTA
レッドワン制作の、ドラマティックなトラックによるヒップホップ。紙上だけのギャングスタなどまっぴらゴメンと、口先ばかりの恋人を虚栄を張るラッパーになぞらえている。まやかしや上辺だけのものに“NO”を突きつける、ガガの心意気が強く表われた曲だ。
13BROWN EYES
クイーン風とも受け取れるスタジアム・ロック調で展開する、ロブ・フサーリ制作のミディアム・スロー・バラード。あなたの茶色い瞳にとどまることができなかったとつぶやく失恋ソングで、哀愁漂うメロディに泣かないように意地を張った歌唱を乗せている。
14SUMMERBOY
ブライアン&ジョシュ制作によるグラム・ロック風のミッド。夏の間だけのボーイフレンド=“サマーボーイ”にしてあげると誘う、開放感に満ちた青春モードの曲だ。一見ガガらしくない、キラキラとした夏らしいサウンドが魅力。
15DISCO HEAVEN
ダンスフロアは天国のようなものと繰り返すディスコ賛歌。ギターが前面に出てはいるが、ファルセット・コーラスや高揚を煽るベースなどのダンスクラシックスを意識したアレンジは、まさに“ディスコ”にふさわしい。ロブ・フサーリの制作。
16AGAIN AGAIN
ガガの失笑から幕を開けるミディアム・ロック。プロデュースはロブ・フサーリで、セリフのような歌い回しも含め、クイーンの影響が感じられる作風だ。今の彼と別れたら一緒になってくれるのかしら、と戻ってきた元彼に告げる復縁ソング。
17RETRO DANCE FREAK
ロブ・フサーリ制作によるディスコ・ロック調のナンバー。ポコポコとした効果音やシンセを駆使して、タイトルよろしく“懐かしいダンス・ソウル・ミュージック”の要素をちりばめたサウンドを展開。人を食ったようなクルクルと変わる声色による演出も楽しい。