ミニ・レビュー
バンドを一新しての4作目。マーク・リボーやジョーイ・ワロンカーなど初顔合わせ組の参加も多く、自作自演歌手として新たな境地を模索中なのが伝わる。映画『マイ・ブルーベリー・ナイツ』で見せた、失意にあってもどこか気の強さがうかがえる表情が重なるアルバムと言えるかも。
ガイドコメント
前作より2年ぶりとなる2009年11月発表の4thアルバム。新しいサウンドに挑戦した本作は、プロデューサーにジャクワイア・キングを迎え、ジェシー・ハリスらと共同制作した楽曲を収めた強力作。ほとんどのギターを彼女が弾いているのにも注目だ。
収録曲
01CHASING PIRATES
波に漂うようなリラックスしたヴォーカルが心地よい、アルバム『ザ・フォール』のリード・トラック。「ちょっとカーティス・メイフィールドっぽい雰囲気」を意識したと本人が語るように、穏やかでありながらグルーヴィな楽曲に仕上がっている。
02EVEN THOUGH
ジェシー・ハリスとの共作曲。切なさを際立たせる歪んだギターの音色が印象的な、センチメンタルでゆったりとしたポップ・ソング。相手と気持ちが通じ合わない寂しさを歌った、憂いを帯びたヴォーカルも聴きどころ。
03LIGHT AS A FEATHER
“暗雲”“石の雨”などの暗いイメージのキーワードをちりばめたアンニュイな歌詞とブルージィな旋律がマッチしたスロー・ナンバー。詞とともに語尾に気だるさを感じさせるヴォーカルは、同時にとても妖艶に響いている。
04YOUNG BLOOD
陰と陽の両方のキーワードをちりばめた、おとぎ話のようにも感じられる言葉遊び風の歌詞が印象的。憂いを帯びたヴォーカルが、ノスタルジックなメロディや躍動感に満ちたサウンドと相まって、摩訶不思議な世界を作り出している。
05I WOULDN'T NEED YOU
心が離れてしまった恋人に帰ってきてと切々と訴えるラヴ・ソング。ゆったりとしたテンポで奏でられる切なくも美しいピアノの旋律や、あなたが必要だとストレートに愛を語る情感を込めたヴォーカルが胸に沁みる。
06WAITING
帰ってくるはずのない恋人を待つ女性の心境を歌った切ないバラード。スロー・テンポの穏やかなサウンドにたゆたうような、柔らかなヴォーカルが心地よい。噛めば噛むほど味わい深い、スルメのような“食感”の名曲だ。
07IT'S GONNA BE
力強いドラミングと本人によるウーリッツァーの音色が固い意志を表わしているかのように響くメッセージ・ソング。自分の国の経済やマスコミについての懸念を歌っており、冷静でありながらエモーショナルなヴォーカルが冴えている。
08YOU'VE RUINED ME
カントリーの要素を取り入れた牧歌的かつポップなサウンドに乗せて“あんたのせいでわたしは台無し”と繰り返す、壊れた愛について歌ったナンバー。軽やかなメロディと悲しい歌詞のギャップが、いっそうやるせない気持ちを演出している。
09BACK TO MANHATTAN
ノラ自身が音楽活動の礎となる数多くの経験をした第二の故郷、マンハッタンを題材にしたノスタルジックなバラード・ナンバー。ピアノやペダル・スティールが奏でる、ゆらゆらと揺れるようなゆったりとしたサウンドが胸に沁みる。
10STUCK
後味の良くない出来事を綴った歌詞と憂いを帯びたメロディがマッチしたミッド・スロー・ナンバー。伸びやかで力強いだけでなく、気だるさや爽やかさをも感じさせる歌唱など、その引き出しの多さに改めて脱帽。
11DECEMBER
ピアノとアコギのみのシンプルな構成のメロウ・ナンバー。指でなぞるような優しく流麗なメロディに呼応する、リラックスしたヴォーカルを聴くことができる。夢見心地になってしまうことうけあいの、癒し系バラードだ。
12TELL YER MAMA
別れた恋人をひたすら罵るという怒りに満ちた歌詞でありながらも全体的にカラッとした印象なのは、ズッチャ、ズッチャというリズムやファニーでポップなメロディのおかげ。アーシーなサウンドもそれに一役買っている、カントリー・ロック調のナンバーだ。
13MAN OF THE HOUR
本人のピアノ弾き語りによる、しっとりとしたラヴ・ソング。残酷で滑稽なストーリー性のある歌詞を紡ぐ大らかで伸びやかなヴォーカルは、ときに淋し気で、ときに楽し気。その豊かな表現力は特筆に値する。
14HER RED SHOES
アルバム『ザ・フォール』の日本盤ボーナス・トラック。音数を絞ったシンプルで穏やかなアコースティック・サウンドが、力強さと優しさを兼ね備えた美しいヴォーカルをいっそう際立たせている。