ミニ・レビュー
“スポーツ”をテーマにポップなコンセプト・アルバムに仕上がった東京事変の4作目。各メンバーが持ち寄った楽曲を多彩ながらもバンドとしての一体感を感じさせるアレンジで、しなやかに力強く聴かせる。『オリコン』チャート1位となった「能動的三分間」ほか、シティ・ソウル風のモダンな曲が聴きもの。
ガイドコメント
約2年ぶりとなる2010年2月24日発表の4thアルバム。「能動的三分間」や配信限定の「閃光少女」をはじめとするシングル曲のほか、各メンバーが“スポーツ”をテーマに持ち寄って制作された個性豊かな楽曲を収録する。
収録曲
01生きる
チャペルの神妙な雰囲気を模した導入から闊達なロック調へ展開する伊澤一葉作曲のナンバー。憧れていた自由に苦しみ、嫌っていた空虚が胸を占める……それでも生命を宿す人間の儚さを歌う。喉を切り裂かんばかりの歌唱とブレイクを挟んでのアウトロにも注目。
02電波通信
快活なドラムとグルーヴィなベースからなだれ込むアッパー・ロック。ポコポコとした音を配した電波的な装飾や通信関連用語を多様しているが、今だけ連結(リンク)していたいと叫ぶ姿は実に肉欲的。機械的な詞と攻撃的なサウンドの表裏一体性が趣深い。
03シーズンサヨナラ
ギターの浮雲の作詞曲。あなたは私のものだったのに……という想いを過ぎゆく季節と重ねて綴る。リズミカルで推進力がありながら、どうにでもなれという感情と哀れみが入り交じったサウンドへと見事に昇華。そこはかとない切なさが魅力のアッパー・ポップだ。
04勝ち戦
明朗で次第に熱を帯びていく浸透力の高さが魅力のミディアム・チューン。ビートルズ・マナーを踏襲したようなロック・サウンドに乗せ、しびれさせるような興奮をちょうだいと英詞で綴る。グリコ「ウォータリング キスミントガム」遠心力篇CMソング。
05FOUL
人を食ったようなホーンを皮切りに高速ビートで駆け抜ける、約2分半のパンク・ロック。解っていても冒してしまう反則=FOULの世界への誘惑を、全編エフェクト・ヴォイスの浮雲と椎名林檎がたたみかける。人間の避けられない本能の叫びのような歌唱だ。
06雨天決行
楽しげな鍵盤や“パッパッパ”のソフトなコーラスなど、「雨に濡れても」風の世界観で綴るラヴリーなポップ・チューン。オールディーズ・ポップの佇まいで、雲間に差す晴れ間を見つける喜びを分かちあいたいと歌う。人生の浮き沈みを天候にたとえた曲だ。
07能動的三分間
江崎グリコ「ウォータリングキスミント」CMソングの6thシングル。椎名林檎らしさが光る深読みしたくなる歌詞を、ノリノリのファンク・ビートにのせて艶やかに歌う。サビ部分の浮雲のコーラスも秀逸だが、“三分間”ピッタリで曲が終わるのにはビックリ。
08絶体絶命
曲は椎名林檎と伊澤一葉の共作。弾む鍵盤とタンバリン音に合わせるようにキュートな歌唱をみせる前半と、ドラムとギターを軸とした中盤以降への変質が楽しい。飾りを剥いだ生々しい歌唱で、押し迫る悲しみから逃れたい気持ちを叫ぶ。
09FAIR
アルバム『スポーツ』で「FOUL」の対となる浮雲作曲によるナンバー。「FOUL」とベクトルを異にしたアダルトなファンキー・ジャム風のサウンドにもたれながら、怠惰と恍惚を行き交うヴォーカルを披露している。人生のはかなさが伝わるようだ。
10乗り気
便利を得た代わりに本能的な生命力を失ってない? と現代人を皮肉るアッパー・ポップ・ロック。気まぐれ感のあるクルクルとした歌唱で、“知った気になってるようじゃ、今日も丘サーファー……”と強烈なパンチを浴びせる。自らの力で突き破れというメッセージだ。
11スイートスポット
全編英詞によるナイス&スローなスウィート・ソウル。深く溶けるように刻まれる時間のなかで、ジワジワと距離が狭まるメイク・ラヴ・ソング風の官能的なムードがたまらない。肉欲的だからこそ生命力をより強く感じるナンバーだ。
12閃光少女
亀田誠治作曲による快活なビートを刻むポップ・ロック。過去を悔いず、未来に怯えず、大切なのは現在をどう生きるかなんだと、今この瞬間にかける少女の視点で綴る。今の感情こそが貴重だというメッセージだ。スバル「軽 STELLA R2」CMソング。
13極まる
どこか霞がかったようなUK的なムードが漂う、浮雲の詞曲による幻想的なミディアム・ロック・チューン。おとぎ話風の世界観のなかで、肉体的な事象をサラッと歌いこなすところが椎名林檎の非凡さの証。タイトルの読みは「きまる」。