ミニ・レビュー
初々しい円熟味、おだやかな狂気、潤いをたたえた貪欲。そんな相反するイメージをキリリと整合させつつ、シングル&タイアップ曲5曲を収録した13枚目のアルバムは、まさに“it's aスピッツworld”。これを聴いて、柔らかな幸福感に包まれるか、繊細な絶望感にさいなまれるかは、あなた次第。
ガイドコメント
いまや国民的バンドとなったスピッツの13枚目のオリジナル・アルバム。2007年リリースの前作『さざなみCD』に続き、共同プロデューサーは亀田誠治。みんなが待っていたスピッツ・サウンドとマサムネ・メロディが満載だ。
収録曲
01ビギナー
確信や結果ばかりが求められる今の時代に、昔無邪気に夢見ていた初心を追いかけるよというつぶやきが心をほっこりとさせる。のどかで温かいロック・サウンドに包まれる、ゆうちょ銀行「夢を追いかける人々」篇CMソング起用の37thシングル。
02探検隊
軽快なグルーヴで展開するアッパー・ロック。既成概念にとらわれず、心を一つにして高き目標へ立ち向かえと、チャレンジ精神を煽っている。マイルドなヴォーカルながら説得力を持つのは、ヴェテランの経験からくる佇まいゆえか。
03シロクマ
日常に疲れた人たちをシロクマに見立てた詞世界が秀逸。わずかでも残った力で現状を抜け出さなきゃ、という励ましのメッセージが嬉しい。暖かいひだまりのような優しく力をくれる快活なサウンドも心に響く。メナード「イルネージュ」CM起用の37thシングル。
04恋する凡人
なりふり構わず気持ちに正直に、ひたすら追い求めて走るんだというメッセージが共感と勇気を与える。ガムシャラで時にシュールな詞世界をサラッと聴かせてしまう草野の歌唱や、それを後押しする高い推進力を持つサウンドの妙は見事の一言。
05つぐみ
青い空とキラキラと輝く水面を想わせる、爽やかで生き生きとしたサウンドが出色の36thシングル。運命よりもはるかに微かな確率で出会った大切な人に告げる“愛してる”。気恥ずかしいけど真面目に伝えなきゃ……という心持ちを映す歌唱が、優しい温もりを生んでいる。
06新月
鍵盤とギターが織りなす目覚めを呼び起こすようなフレーズのループが印象的。ミステリアスな夜の雰囲気を創り出した、亀田誠治によるシンセ・アレンジも効果的だ。会えると信じる気持ちを、開拓者に変わってみせると描写した詞が素晴らしい。
07花の写真
のどかな田園風景が浮かぶようなカントリー色で彩られたナンバー。陽気なサウンドのなかで歌われる、毎年送る花の写真が切れそうで切れない二人の仲を繋いでる……という、ちょっぴり切なくも温かい詞世界が微笑ましい。
08幻のドラゴン
活力あるサウンドに導かれるように、力がみなぎるヴォーカルが印象的なミディアム・ロック。忘れかけていた想いをもう一度燃やそうと励ましてくれる。優柔不断はマッキーでぬりつぶす、の描写が彼ららしい。ブリヂストン「ブリザック」CMソング。
09TRABANT
トラバントは、随伴者や仲間という意味を持つ旧東ドイツの人気小型車の名前。君と一緒に旅へ出たいという想いを夢見る歌で、タイトルに呼応するように疾風のごとく駆け抜けるビートとどこかロシアや東欧を意識したスラヴ的なメロディ・ラインが魅力だ。
10聞かせてよ
躊躇していた気持ちを捨てて、自身の声を聞かせて欲しいと語りかけるミッド。“聞かせてよ 君の声で僕は変わるから”というフレーズは、ある意味でリスナーへの問いかけともとれるか。ラストの“歌いはじめる”は、素朴ながらも説得力は大きい。
11えにし
純真に爪弾かれるギターとハモンドオルガンのやわらかなタッチが、微笑ましい雰囲気を生む。若かりし頃を振り返りながら、年を積み重ねることでようやく気づいた本当に伝えたい言葉。それに出会えた喜びを、力まずに聴かせる。ヤマザキ「ランチパック」CMソング。
12若葉
映画『櫻の園』主題歌起用の34thシングル。若葉萌ゆる季節がめぐるたびに浮かぶ、心にチクリと刺さる懐かしい思い出を叙情的に描写。君との思い出を胸に、自身の夢へと近づこうとする一人の物語だ。木漏れ日のようなキラキラと爽やかなサウンドも、タイトルにピッタリ。
13どんどどん
ヴォーカル・エフェクトやエッジの効いたギターなどを駆使して、タイト&スピーディに展開するロック・チューン。仮名のタイトルや草野の歌唱から思い描くやわらかなイメージとは対照的な、韻やノリで疾走する3分弱のワンナイト・ドリームだ。
14君は太陽
理想ではないけど、きっと愛すべき太陽なんだ……大切な君へ送る、不器用な男の想いを綴った軽快なロック・チューン。鮮やかな青空のような爽やかで甘酸っぱいサウンドは、これぞスピッツの真骨頂といえる。映画『ホッタラケの島〜』主題歌起用の35thシングル。