ミニ・レビュー
2年ぶり6枚目のアルバム。一人でほぼ全パートを演奏したという本作は、吉井の自然体の姿を封じ込めたような、どこか懐かしさを感じさせるような味わい深い作風が持ち味。ハードな曲からメロウな曲までヴァラエティに富んだ楽曲には、吉井のさまざまな表情が見て取れる。
ガイドコメント
前作『VOLT』以来約2年ぶりとなる、2011年3月30日発表のアルバム。先行シングル「LOVE & PEACE」や、年末の武道館ライヴでも披露された「アシッドウーマン」「リバティーン」ほかを収める。色濃く凝縮された独特のロックを堪能せよ。
収録曲
01THE APPLES
6thアルバム『The Apples』のオープニングを飾るインスト・ナンバー。緊迫感のあるシンセサイザーから始まり、“The Apples”の声とともに一気に爆発。飛び出すようにギターがうなり、アルバム全体に勢いを与えている。
02ACIDWOMAN
イントロの歪んだギターのアルペジオが印象的なロック・ナンバー。乾いた風が吹き荒れる荒涼とした大地を想起させるサウンドに乗せ、色彩感覚に優れた言葉を綴っていく。サビで一気に広がる“ACIDWOMAN”のシャウトに心を揺さぶられる。
03VS
ワイルドに鳴らすイントロのギター・ストロークがクールなキラー・チューン。アルバム『The Apples』のリード・トラックとして制作された楽曲で、自分との戦いに勝つべく最後のゴングが鳴るまでファイト! と力強く歌い上げる。
04おじぎ草
ダークにたゆたうギターのオブリガートがどこかエロティックな雰囲気を感じさせるミディアム・スロー・ナンバー。禁断の恋に苦しむ様子をおじぎ草にたとえた詞世界は独特。歌詞に登場する“眠り草”はおじぎ草の別名。
05イースター
西部劇の世界をそのまま表わしたようなギター・リフを中心に展開する疾走感あるナンバー。前のめり気味に走るビートとアンニュイに伸びるメロディ・ラインとの対比が楽しい。随所に入り込んでくるグループサウンズ的なギター・フレーズもいいスパイス。
06CHAO CHAO
ギター、ベース、ヴォーカルがほぼユニゾンで展開するユニークなナンバー。全体的にストロングなサウンドながら、“オルタナティブ オレは感じる”と韻を踏むような歌詞や“ドゥーワッ”というレトロなコーラスなど随所に遊びを感じさせる。
07ロンサムジョージ
ガラパゴス諸島、ピンタ島に生息する“ピンタゾウガメ”の最後の生き残りの一頭に名付けられた愛称を冠するナンバー。その姿は、泥臭いギターのフレーズやどっしりとしたビート、“のっそり のっそり 夜更けにむせび泣いた”という歌詞にも表われている。
08MUSIC
ファンキーなビートや語りかけるような歌唱が新鮮なナンバー。“音楽があってよかったな”とぶっきらぼうに言ってのける姿にドキッとさせられる。サラッとファンクな演奏をこなしてしまう吉井のミュージシャンとして実力もさすが。
09クランベリー
“クランベリー(禁断の果実)”や“アダムとイブ”“知恵をつけた猿”といったこのアルバムを象徴するような単語が多く登場するロック・チューン。ヘヴィメタル風のフレーズが登場するサビやスラッシーな表情を見せる後半など、アレンジの妙も見事。
10GOODBYE LONELY
ほぼギターの弾き語りのようなスタイルで展開するミディアム・バラード。シンプルなサウンドと、多くを語らないながらも、言葉にしても伝わらないならば一緒に歌おうと綴る歌詞が感動的。ヴォーカリストとしての魅力を遺憾なく発揮している。
11LOVE&PEACE
映画『カウントダウンZERO』日本公開版のエンディング・テーマに起用された11thシングル。シンプルなタイトルそのままに“殺し合っても無駄なことさ”というメッセージを歌う。美しいメロディ・ラインが映えるアレンジも秀逸。
12プリーズ プリーズ プリーズ
“プリーズ プリーズ プリーズ”“ヤーヤーヤー”“LOVE ME DO”という歌詞やコーラスからもわかるように、ビートルズをはじめとしたロックンロールへの感謝を歌う。どのフレーズがどのバンドへのオマージュかを探すのも楽しい。
13HIGH&LOW
ギターとハーモニカを中心に展開する、カントリー・ミュージックのフレイヴァーをふんだんに組み込んだナンバー。2009年時のツアーの模様を収録した映像作品のナレーションをベースに、青春時代を綴った歌詞が構成されている。
14FLOWER
ストリングスを配したドラマティックなサウンドで展開するロック・ナンバー。オアシスへの色濃いオマージュを感じさせながら、吉井ならではの美しいメロディが伸びやかに響く。花のように短くとも美しい時を繋ごう、というメッセージが感動的だ。