ミニ・レビュー
作品ごとに独自の変容を提示してきたイギリスの5人組による8枚目のアルバム。先鋭的な実験精神は今回も同様で、聴き込むほどに重層的な仕掛けが表出してくる。その中でもプリミティヴな感性を主軸に置いたかのような佇まいが特に印象的。約38分という収録時間が逆説的に濃密さを演出する。
ガイドコメント
2007年発表の『イン・レインボウズ』以来、約3年ぶり通算8作目となるアルバム。長年のコラボレーターでありバンドとともに数々の名作を生み出してきた、ナイジェル・ゴドリッチが再びプロデュースを担当。
収録曲
01BLOOM
約3年ぶり、2011年にリリースのアルバム『ザ・キング・オブ・リムス』の冒頭曲。ジャケット・イラストを彷彿とさせる、得体の知れない恐怖を感じさせながらも、居心地のよさも同時に感じさせる緊張感あふれるサウンドが引き付ける。
02MORNING MR MAGPIE
浮遊感あふれる美しくも冷たい印象を残すメロディが、小刻みなリズムに乗せてふわふわと浮かび上がるロック・チューン。何らかのメタファーと推測するのが正しいのであろう“MR MAGPIE”へのメッセージは意味深だ。
03LITTLE BY LITTLE
ギターの不協和音とトム・ヨークの浮遊するかのようなヴォーカルに、不気味さと心地よさを同時に覚えるロック・チューン。「少しずつ」「だんだん」という意味を冠したタイトルどおり、じわじわと心に染みる静かなロック・チューンだ。
04FERAL
ごくごく短い歌詞の、歌も楽器のようにサンプリングを用いた使い方をしたシリアスなドラムンベース風のロック・ナンバー。ベースの重低音が強くなる終盤にかけて、より緊張感が高まっていく。静かな興奮を覚える一曲。
05LOTUS FLOWER
『キッドA』以降に発表された楽曲のなかで、もっともポップな楽曲。PVでは英ロイヤル・バレエのウェイン・マクレガーの指導による振付でトム・ヨークが激しく踊っているが、「きみを解放するよ」と繰り返す歌詞のとおり、精神の解放がテーマになっている。
06CODEX
柔らかく幽玄なピアノの音色をフィーチャーしたスローでメロディアスなナンバー。トム・ヨークのヴォーカルもアルバム『ザ・キング・オブ・リムス』中もっとも余裕があるように感じられる優しい響きで、アクセントで入っているホーンの音色も心地よい。
07GIVE UP THE GHOST
「道を失った人とその魂を集めて あなたの腕の中へ」と綴る優しく包み込むような歌詞を乗せた、神秘的なメロディをループさせたスロー・ソング。ロック・ファンの賛美歌と呼んでも良さそうなほど、癒し効果抜群だ。
08SEPARATOR
エコーがかったトム・ヨークの浮遊感あふれるヴォーカルが紡ぐ柔らかいメロディが、夢の中にいるようなファンタジックな気持ちにさせるナンバー。ベースもドラムも音数の少ないシンプルな構成で、コーラスを重ねることでより浮遊感を演出している。