ミニ・レビュー
現代UKを代表するロック・バンドの4作目。今回は西海岸でレコーディングを行ない、そのせいか爽快なメロディと切れ味抜群のバンド・サウンドで一気に押し切るような、痛快極まりないアルバムとなった。風格や余裕も全編で感じられ、楽しんで制作したさまが伝わってくるようだ。
収録曲
01SHE'S THUNDERSTORMS
4thアルバム『サック・イット・アンド・シー』の冒頭を飾るスケールの大きなロック・ナンバー。イントロの浮遊感のあるギターのアルペジオから、雄大な大地を思わせるどっしりとしたビートへ。もの憂げな声で“彼女は雷雨だ”と歌う。
02BLACK TREACLE
リヴァーブの効いたサウンド・メイクでぼんやりとしたまどろみのような印象を与えるミディアム・ナンバー。アレックスのアンニュイな歌唱とともに、豊かに広がりをみせる音をキッチリと引き締めるベースとドラムがクール。
03BRICK BY BRICK
エフェクトを効かせたギターのバッキングで幕を開けるロックンロール・ナンバー。“ひとつひとつロックンロールしたい”んだと繰り返し訴えかける。一気にテンポを落とし、曲にストーリー性を持たせるブリッジがユニーク。
04THE HELLCAT SPANGLED SHALALALA
シャリシャリとしたギターのイントロが印象的なロック・チューン。ベースとドラムで構成されるタイトな前半から、“シャラララ〜”と歌うコーラスがきっかけとなり、徐々に熱量を帯びていく演奏がグッと心を引きつける。
05DON'T SIT DOWN 'CAUSE I'VE MOVED YOUR CHAIR
不穏なギター・リフとアレックスのヴォーカルが絶妙な空気を作り出すナンバー。独特なサウンドと断片的な情景描写を用い、“君の椅子を動かしちゃったから座らないでくれ”というなんでもないフレーズが文学的な意味を帯びていく。
06LIBRARY PICTURES
まさに“アークティック・モンキーズ節”とでもいうようなキリキリとしたテンションで描き上げるキラー・チューン。ズブズブに歪ませたギターが洪水のように押し寄せるが、タイトなリズム隊で曲の輪郭自体はくっきりと保つ。さすがの演奏だ。
07ALL MY OWN STUNTS
緊張感のあるギター・リフを中心に、ずっしりとしたビートで展開するロック・チューン。1952年に制作された西部劇映画『真昼の決闘(HIGH NOON)』を引き合いに出し風景を綴る、アレックスならではの詞世界が魅力的。
08RECKLESS SERENADE
ポップなベースのリフを前面に押し出したスッキリとしたアレンジが印象的なナンバー。“自分に必要なのがなんなのか ハッキリ理解しようと努めてきた”んだと、ふっきれたようなヴォーカルで歌い上げる“やけっぱちのセレナーデ”だ。
09PILEDRIVER WALTZ
1960年代のアメリカン・オールディーズのようなゆったりとしたビートとドリーミーなサウンドで綴るナンバー。全体を覆う穏やかな日差しのような印象とは対照的な、アレックスのシニカルな描写と時折はさむ不思議なコード感が映える。
10LOVE IS A LASERQUEST
温かな音色が響くポップ・チューン。おもちゃのレーザー銃を使った鬼ごっことかくれんぼの中間のようなゲーム“レーザークエスト”を引き合いに、“あいかわらず愛とはレーザークエストだって思ってるの?”と優しく語りかける。
11SUCK IT AND SEE
4thアルバムのタイトル・ナンバーにして、このアルバムを象徴するようにポップなテイストを前面に押し出した楽曲。“痛む胸の思いをポップ・ソングに込めたけど 作詞のコツが飲み込めなかった”という一節がすべてを物語る。
12THAT'S WHERE YOU'RE WRONG
シンプルなベースライン、ストレートなリズムを刻むドラムス、そしてアクセントとして響くシャリシャリとしたギターが絶妙な配分で絡み合うポップ・チューン。“総天然色のジェラシー”“琥珀色の街の灯り”など、色彩豊かな世界が綴られる。
13THE BLOND-O-SONIC SHIMMER TRAP
4thアルバム『サック・イット・アンド・シー』日本盤に収録のボーナス・トラック。ポップなテイストを押し出したアルバムのカラーとは異なる、エッジの効いたビートや潰れたギターの音色が印象的。コーラス・ワークも美しく響く。