ミニ・レビュー
2012年2月29日を最後に解散した東京事変の、これまで残されたライヴ音源をまとめたライヴ・ベスト。実力派ミュージシャンが揃ったバンドだけに、オーガニックで躍動感あふれる演奏や即興的なアレンジなど、鉄壁な演奏力はライヴのほうがその魅力を楽しめるはず。意味深な新曲「三十二歳の別れ」も聴きものだ。
ガイドコメント
2012年2月15日リリースのライヴ・ベスト・アルバム。東京事変がこれまでに行なってきたすべてのライヴからベスト・テイクを厳選。5人の個性が弾け、しのぎを削り合い昇華した奇跡のステージの貴重な足跡の数々をパッケージした、ファン垂涎の一枚。
収録曲
01三十二歳の別れ
ピアノと歌のみで幕を開けるミディアム・バラード。ライヴ・テイクながらオーディエンスなしの東京国際フォーラムでの録音で、“払った犠牲を競うの止めよう”と歌う。林檎の歌声が無人のホールいっぱいに響く様子が目に浮かぶよう。
02禁じられた遊び
緊密なアンサンブルが不穏な空気を生み出すロック・チューン。巧みに音を抜きつつリズムを積み重ねるデリケートな演奏を事もなげにライヴで再現するメンバーの技量の高さはさすが。ラストのサビでの林檎の歌声も心を鷲づかみにされる。
03かつては男と女
亀田誠治のベースで巧みにコード感を引き出すゆったりとしたイントロから、意表を突いたAOR風のアレンジへと変貌するポップ・チューン。各パート最低限のアレンジながらそのセンスは抜群。ラストの伊澤一葉のグルーヴィなオルガン・ソロが気持ちいい。
04キラーチューン
曲が始まった途端にオーディエンスの歓声が沸きあがる、まさに“キラーチューン”な5thシングル。スウィンギーでポップな踊れるナンバーながら、“今日は一度切り”と搾り出すように精一杯歌う林檎の歌声はどこか感動的だ。
05OSCA
キーボードやベースはもちろん、ヴォーカルまでもを派手に歪ませた浮雲作詞曲の4thシングル。どこかトボけたようなビートで進むロックンロール・ナンバーで、エアロスミス「ウォーク・ディス・ウェイ」でソロを仕掛けるライヴならではの遊びも楽しい。
06ミラーボール
タイトルどおりミラー・ボールが映えるディスコ・ファンク・ナンバー。亀田誠治と刄田綴色が生み出すタイトでファンキーなビートに、浮雲らしい変態的なフレーズが彩りを添える。サビでのユニークな低音コーラスも聴きものだ。
07復讐
全英詞で綴られるダークでドロドロとしたミディアム・ナンバー。浮雲の変態的なオブリガートとともに熱量を増していく後半の美しさは秀逸。オーディエンスの歓声が沸きあがるまでに要する一瞬の間が、バンドの凄みを物語る。
08ピノキオ
2007年のツアーにて演奏されたミディアム・バラード。彼らの楽曲の中では比較的シンプルなアレンジだけに、メロディの美しさとヴォーカルの魅力、童話をモチーフにした歌詞の世界をストレートに味わうことができる。
09閃光少女
配信限定シングルとして2007年にリリースされた疾走感のあるロック・チューン。リリース当日となる11月21日にZepp Tokyoで行なわれた公演でのライヴ・テイクで、新曲披露時特有の緊張感と期待の混じった独特の空気が新鮮だ。
10透明人間
どこかコミカルなベースで幕を開けるロック・ナンバー。メロディはどこまでもポップだが、彼らならではのギミックに満ちたアレンジが楽しい。サビの後ろで伊澤一葉が奏でるクラッシク然としたフレーズがもたらす違和感と高揚感は至福そのもの。
11丸の内サディスティック
椎名林檎ソロ時代から高い人気を誇るナンバー。ベタッとしたリズムからボッサのテイストも取り入れたシティ・ポップ風の洗練されたアレンジでの披露。東京事変としてはあまり聴くことのできないコーラスや亀田誠治のアップライト・ベースも新鮮。
12スーパースター
シアトル・マリナーズのイチローをイメージして作詞されたというアルバム『大人(アダルト)』収録のドラマティックなナンバー。“「未来は不知顔さ、自分で造っていく。」”というフレーズには、孤高の存在感を示す林檎ならではの共感がこもっているように感じさせる。
13群青日和
東京事変としてのデビュー・シングルにして、彼らの代名詞ともいえるキラー・チューン。2005年ツアー時の収録で、ツアー終了後に脱退することとなるH是都M、晝海幹音の鬼気迫る演奏が心をうつ。林檎ならではの言い回しに満ちた歌詞も楽しい。
14夢のあと
後に椎名林檎×斎藤ネコ名義でもセルフ・カヴァーされたアルバム『教育』収録のナンバー。ピアノと歌を中心としたドラマティックなバラードで、ライヴ収録ならではのダイナミクスに満ちた演奏が展開。徐々にテンポを上げていくカオティックなラストは見事のひと言。
録音
(1)〜(3)2011.12 (4)(5)2010.5 (6)2008.8 (7)〜(9)2007.