ミニ・レビュー
全米No.1ヒット作が続くR&B系シンガーの7作目。4つ打ち系ダンス・ミュージックに留まらない中低音の利いた多彩な曲に乗って、ファルセット・ヴォイスもポップに響く。リック・ロスやファレル、ルーク・スティールらも参加して盛り立てる。日本盤のみ本編の曲のリミックス1曲追加で歌詞和訳付き。
ガイドコメント
“トランス要素の入ったまったく新しい境地のダンサブルなアルバム”というテーマを掲げたアッシャーのアルバムは、プロデュースにDJディプロを起用。エレクトロ調なビートにあわせてファルセットが乗るなど、官能的な雰囲気も楽しめる圧倒的な一枚。
収録曲
01CAN'T STOP WON'T STOP
最大のトピックはビリー・ジョエル「アップタウン・ガール」をシンセ・サウンドで配したウィル・アイ・アムのアイディア。アッシャーのポップ性をBEP的ダンス・ポップで引き出している。ここでいう“止められない”は君が欲しくてたまらない衝動だ。
02SCREAM
アルバム『ルッキング・フォー・マイセルフ』からの2ndシングル。「DJ・ゴット・アス・フォーリン・イン・ラヴ」路線のパワフルなクラブ・ダンサーで、制作の中心はマックス・マーティン。君を“絶叫”させてやるよと自信満々にほくそえむ。
03CLIMAX
溶けるようなファルセットで愛の終焉を迎えるやるせなさを歌うメロウ・チューン。DJ出身のディプロならではのクラブ的な音使いとR&Bマナーのメロディが導く、新鮮なアプローチだ。アルバム『ルッキング・フォー・マイセルフ』の先行シングル。
04I CARE FOR U
愛する気持ちを理解してもらえない恋人へ、そろそろ信じろよと諭すラヴ・ソング。メロディは濃厚なメロウR&Bだが、グニャグニャうねるシンセ・ビートとの組み合わせが斬新。ティンバランド一派のデンジャらしい中毒性の高いスルメ的なトラックだ。
05SHOW ME
君のすべてをさらけ出してパーティを楽しもうと語りかけるキャッチーなR&Bだが、デンジャらしくビートはにぎやか。“ウィフー”という口笛風のバック・コーラスも重なって、開放感に満ちたトラックを構築。アッシャーらしさ全開のポップだ。
06LEMME SEE
ジム・ジョンシンらしいピコピコ音を加えた、アーバンでひんやりとした肌質を感じるムーディなR&B。後半登場のリック・ロスは詞やフロウともに自己満足気味も、アッシャーのヨーデルっぽいファルセットが素晴らしく気にならない。行動で示してと告げる誘惑ソングだ。
07TWISTED
イントロから瞬時にこれぞファレル・サウンドと判るオールドスクールなソウル・ダンサー。リズム&ブルースやロックンロールの要素を含んだ陽気なトラックとの邂逅は、アッシャーの新境地。そこでも歌唱が活きるのは、見事な存在感というしかない。
08DIVE
ジム・ジョンシンによる穏やかな流れが感じられるミディアム・スロー。いい具合にささやかに添えられたギターをバックに、艶やかで伸びやかなファルセットで聴かせる。美しい世界観だが、ダイヴするの君の深い場所……というアッシャー節全開のラヴ・ソングだ。
09WHAT HAPPENED TO U
ノトーリアスB.I.G「ワン・モア・チャンス」をさりげなく敷いたノア“40”シェビブ制作曲。金、名誉……必死で働き得られたけれど、君が去っていきそうだと切なく歌うスウィート&メロウなR&Bで、やわらかなファルセットは耳に溶け込むようだ。
10LOOKING 4 MYSELF
アルバム・タイトル曲となった、ポップでメロディアスなダンス・チューン。自身を探してるのにまだ見つからないという内省的な歌だ。80年代的な派手やかさがあるが、アッシャーらしくスムース&アーバンに描いたのは見事。ルーク・スティール客演のリコ・ラヴ制作曲。
11NUMB
本物に気づくために麻痺するくらい自分の感じるものだけを信じるんだと歌う、開放感にあふれたハウス・ダンサー。アクスウェルによるクールなエレクトロ・サウンドとアッシャーの伸びやかなヴォーカルの相性は抜群で、爽快と高揚を同時に運び込んでくれる。
12LESSONS FOR THE LOVER
ゆったりと深く沈み込んでいくスローなR&B。いがみ合っていても互いに向き合って夜を過ごすこと……それが恋人たちへのレッスンなんだと説くセクシーなナンバーだ。ここでは軽薄さはなく、優しく招き寄せる歌唱を披露する。制作はリコ・ラヴ。
13SINS OF MY FATHER
シリアスなタイトルは、父親が残した罪のツケを息子の自分が払っているという意味深な内容から。実父に育てられずにきたアッシャーの嘆き節か。それに呼応するように、サラーム・レミによるビートは重く、変則的だ。
14EUPHORIA
スウェディッシュ・ハウス・マフィアによるバキバキなハウス・ダンサー。恋に落ちないと決めていたのにすっかり陶酔(=ユーフォリア)したよと告げるラヴ・ソングで、ビートやファルセットともに胸躍るよう。単なるダンサーとは違って、実にセクシー。
15I. F. U.
ポップワンゼルとリコ・ラヴによるヒネリを効かせたミディアム。ヴァイオリンのもの寂しいリフレインをはじめ、多彩なアクセントによる異色の構成が特色。タイトルは“I'm freakin' you”の略で、とにかくヤリまくろうぜという歌。
16SAY THE WORDS
ルーク・スティール&スラーンによるセクシーなミディアム・スロー。シンセをバックにしたファンク寄りな曲だが、アーバンな雰囲気をかぶせてスムースなR&Bに仕立てている。心地よい歌唱が泳ぐ、永遠の愛を告げるラヴ・ソングだ。
172ND ROUND
久しぶりの再会に抑えきれない衝動を綴ったメイクラヴァー。ディプロ制作による濃い目のR&Bだが、エフェクトを効果的に使ったアレンジで、アーバンでドラマティックなムードに。ガール、戻ってきたよとサラリと言ってのけるアッシャーがニクい。
18HOT THING
キャッチーなフック“ホット・シング”のリフレインがクセになる、ヒップホップ・マナーのクラブ・チューン。エイサップ・ロッキーを招いて、ゴリゴリで挑発的なエロ・パーティ・ソングを展開。二人ともにゴキゲンだ。制作はファレル。
19CLIMAX
アルバム『ルッキング・フォー・マイセルフ』の先行シングルのリミックス。溶けるようなファルセットで一面覆われるが、原曲制作のディプロがいっそうクラブ寄りに重心を移して4つ打ちハウスに。なかなか新しい切り口だ。