ミニ・レビュー
彼らにとって6枚目のアルバムとなる本作は、スタジオではなくバンドの中心である山口一郎の自宅で5ヵ月かけて作られた。人気が上昇しても自分たちを見失わない決意が見えるサウンドは、細部まで手が入りながらも枠に収まることない、いい意味でリスナーを裏切る力作だ。
ガイドコメント
前作『DocumentaLy』に続く、2013年3月13日発表のアルバム。ドラマ『37歳で医者になった僕〜研修医純情物語〜』主題歌の「僕と花」、モード学園CMソング「夜の踊り子」、ドラマ『dinner』主題歌「ミュージック」を含む充実作。
収録曲
01intro
6枚目のアルバム『sakanaction』の冒頭を飾る、約10秒にも満たないイントロダクション・トラック。 一滴の水が水面に波紋を作るようなイメージの音から、電波のノイズのような音が時折挟まれる。アルバムの展開に期待が高まる。
02INORI
名曲「ナイトフィッシングイズグッド」の合唱コーラスを彷彿とさせるサカナクションらしい男女混声の“Lalala”のループの後に、ヴォーカルレスのミニマル・テクノが展開。意外な構成はバンドとエレクトロ・アーティスト、AOKI takamasaとの合作によるもの。
03ミュージック
江口洋介主演フジテレビ系ドラマ『dinner』主題歌に起用された8枚目のシングル。エコーのかかったヴォーカルとミニマルに展開するサビが浮遊感と幻想的な空間を作り出している。ラストに複数メンバーによるユニゾンが強烈なインパクトを残す。
04夜の踊り子
学校法人モード学園の2012年度CMソングとなった7枚目のシングル。BPM速めの4つ打ちで、キャッチーなメロディとバンドの肉体感を強く感じながらも、構成などにトランシーなフロア感覚がしっかり息づいている、彼らの真骨頂ともいえる曲だ。
05なんてったって春
春に別れを経験し大人になっていく自分を感傷的に見つめた一曲。サビの歌詞がリズミカルに韻を踏んでいき、言葉遊びのように脳内をぐるぐると駆け巡る。シンプルなシンセ・アレンジが中盤から厚みを増し、螺旋階段をゆるやかに上昇するように盛り上がっていく。
06アルデバラン
冬のダイヤモンドの一つでおうし座でもっとも輝いている恒星(もしくは『聖闘士星矢』のキャラ?)をタイトルにした、夜明けの物語。リズムは性急な16ビートながら、夜のしんとした静寂と寂寥感を漂わせるようなスペイシーな音作りとメロディだ。
07M
夕焼けを見た時の一抹の寂しさを描いた一曲。不穏な旋律のシンセ・ループをベースに徐々にホーンやパーカッション、シタールなどが導入されていくアレンジが面白い。さらにフックのヴォーカルを女性メンバーが担当し、メッセージを強く伝えている。
08Aoi
NHKテレビ『2013 NHKサッカー』テーマ・ソングとして書き下ろされ、テーマはズバリ“青春”。4つ打ちを基調にしつつ、サビは力強いメロディと疾走感を伴ったギター・ロックだ。校歌斉唱を思わせるような男女混声の群唱パートはさすがのサカナ印。
09ボイル
得体の知れぬ不安や焦りに心が支配される夜……。情景的な歌詞、所々で感情が爆発する山口のヴォーカルが、寄る辺ない気持ちを代弁しているよう。そんな詞の世界だが、しっかり踊れるサビ、華やかな終盤のコーラスは爽やかな明るさを持っている。
10映画
食器がぶつかるような生活音のサンプリングと静謐なエレクトロニカが一体となったサウンドに、数少ない言葉を乗せて聴き手の想像力を喚起する、まさに映画的といえる一曲。ゆらゆらとしたサウンドスケープが踊り疲れた体を癒すようだ。
11僕と花
関西テレビ・フジテレビ系ドラマ『37歳で医者になった僕〜研修医純情物語〜』の主題歌に起用された6thシングル。彼ららしいエレクトロ・サウンドはあくまでエッセンスにとどめ、山口のヴォーカルや草刈のグルーヴィなベースを最大限生かした“ロック”ナンバーだ。
12mellow
“絵になるよう”“手の鳴るほう”という詞がゆるゆるとループする、タイトルどおりメロウでスロウ、そしてミニマルな音作りの一曲。オルガンのような温かみのあるサウンドが浮遊感と深遠な夜の闇を演出しているようだ。
13ストラクチャー
「INORI」に続く、AOKI takamasaとのコラボ曲。アコギのフレーズ、山口による“Lalala”のコーラスのループを中心に構成されるトランシーなインスト。歌詞カードには大量の「―と○」が並び、聴き手に心地よさだけではない“思考”を投げかける。
14朝の歌
アルバム『sakanaction』のクロージング。ピアノを中心としたシンプルな8ビートのスロー・ナンバーで、優しげなメロディや歌声がまさに夜明けの安心感を運んでくる。繰り返される“表と裏”という言葉は、このアルバムが持つ表情を象徴しているようだ。