ミニ・レビュー
待望の来日公演が実現したポスト・ダブステップ界の天才児=ジェイムス・ブレイクのセカンド作。前作で構築したブレイク流の内省的な世界はそのままに、より歌を押し出しつつ新たなシンセなどを導入し、空気感にあふれるサウンドを展開している。より深くかつポップに進化を遂げた怪作だ。
ガイドコメント
ダブステップを軸とした独創的なサウンドで話題となったジェイムス・ブレイク。セルフ・タイトル作のデビュー・アルバムに続く2ndアルバムは、「レトログレード」をはじめ、ヒップホップからハウスまでを再解釈した刺激的な一枚となっている。
収録曲
01OVERGROWN
マッシヴ・アタックやエイフェックス・ツイン以来、長く不在だったエレクトロニック・ソウルの王座の後継者との呼び声が高い、ジェイムス・ブレイクの約2年ぶりとなる2ndアルバムの冒頭曲。アンニュイで影のあるヴォーカルが妙に心地よい。
02I AM SOLD
宗教的な神秘性をも感じさせるヴォーカルは、鬱蒼とした森へと吸い込まれるかのごとく。時折差し込まれる、自我へ打ち響かせる雷鳴のような衝撃音が印象的だ。ブレイクビーツとエレクトロニカが生み出す奇妙な味わいで覆われたナンバー。
03LIFE ROUND HERE
シンセ・ベースを軸にダークなポップとして描いたハイブリッドな感覚が全編を支配する。虚ろな視線で吐き出すのは、“ここではパートタイムな恋愛がすべて”という恋のネガティヴな一面。憂鬱な雨の日を思い起こす世界観で覆われている。
04TAKE A FALL FOR ME
ウータン・クランのRZAの客演による、苦悩を打ち明けたようなフロウを組み込んだダウナーなエレクトロ・トラック。不穏なムードを醸し出すシンセで覆われるなかで広がる澄んだヴォーカルが、一縷の希望の光にも感じられる。
05RETROGRADE
ハミングから幕を開ける、2ndアルバム『オーヴァーグロウン』からの先行シングル。揺らぎを携えたヴォーカルで、人生での自立とは何かについて問いかける。ポスト・ロックとエレクトロ・ソウルが融合した幻想的なトラックだ。
06DLM
非常に冷静に、しかしながら情動に促された、彼らしいラヴ・ソング。ゴスペルやレクイエムといった表情さえ感じさせる荘厳な展開には、旅立ちの日の夜明け前のようなムードが漂う。2分半に満たないポエトリー的なナンバーだ。
07DIGITAL LION
ブライアン・イーノとの共作による、マントラのような浮遊感が脳を支配するエレクトロ・トラック。パッチワーク的なアレンジやアグレッシヴな展開など、一筋縄ではいかない曲風が印象的。時間感覚を狂わせるデジタルな強者について抽象的に語る。
08VOYEUR
ポスト・エレクトロニカ的な4つ打ちハウスとでもいうような前衛的なダンス・トラック。“彼女の心には僕がいたんだ”と執拗に繰り返すクライマックスは、ダンスフロア的な熱を通り越して狂気すら感じさせる。エスニックな彩りも中毒性を高めている。
09TO THE LAST
ここで言う“ラスト”とは、二人で最後まで向かうという意味。次第に地平線に光が満ちる暁光のような清々しさと時の重みを感じるエレクトロで、どこか人懐っこい歌唱に優しく包まれる。これまでにないストレートなラヴ・ソングだ。
10OUR LOVE COMES BACK
荒涼とした風景やゆっくりと眠りに落ちていくまどろみを感じさせる雰囲気に満ちたラヴ・ソング。ゾクゾクとした色気を帯びたハミングがじんわりと体内に染み込むようだ。官能的なララバイといった作風も印象に残る。
11WILHELM SCREAM
セルフ・タイトル作となったデビュー・アルバム収録曲のピッチフォークでのライヴ版。“フォーリン、フォーリン……”と文字どおり落ちていくダウナーで幻想的な空間が恍惚を生む。演奏を終えた瞬間の観客の拍手で正気の世界へ舞い戻るようだ。