ミニ・レビュー
全米No.1を獲得した『コントラ』(2010年)以来3年ぶりとなる、米ブルックリン産バンドのサード・アルバム。ヴィンテージ楽器を使ったオーガニックなサウンドによるピュアなロックが魅力となっており、シリアスなムードと同居したポップなヴォーカル・メロディが実に味わい深い。
ガイドコメント
米ブルックリン出身の4人組ロック・バンド、ヴァンパイア・ウィークエンドの3rdアルバム。LAのスタジオで制作された本作はピアノやアコースティック・ギター、オルガンが随所に用いられ、オーガニックなサウンドを追求したものになっている。
収録曲
01OBVIOUS BICYCLE
ウッディかつオーガニックな空気をしっかりと取り込んだサウンドが温かい3rdアルバムのオープニング・ナンバー。“グズグズするな(Don't wait)”と歌うエズラのファルセット・ヴォイスがどこか遠いところに導いてくれるよう。
02UNBELIEVERS
ドコドコとタムを叩いて作り出した躍動感のあるビートと、キュートなピアノが醸し出すウキウキするような雰囲気が魅力のロック・ナンバー。音を幾重にも重ねて高揚感を、そしてそこから唐突に音を抜いて爽快感を作り出すアレンジの妙が楽しい。
03STEP
チェンバロやオルガンを用いたイントロをはじめ、聖歌隊のコーラスのようなシンセサイザーによって荘厳で宗教的な響きを持たせたナンバー。音数は少なく、ヴォーカルも全編にわたって抑えめ。美しいメロディ・ラインがどこまでも映える。
04DIANE YOUNG
3rdアルバムからのリード・シングルとして発表されたファニーなロカビリー風のナンバー。声にエフェクトをかけつつ歌う“Baby Baby ……”のサビが耳に残る。NYのサロンを創設した“ダイアン・ヤング”をモチーフにした歌詞もユニーク。
05DON'T LIE
レトロなオルガンを中心としたサウンドや、サビのバックで流れるパッヘルベル「カノン」のようなメロディが教会を思わせる。ドラムマシンを使って作りだしたような、ミスマッチとも思えるドラムが不思議な魅力を生んでいる。
06HANNAH HUNT
ドミナント・レッグスのハンナ・ハントをタイトルに冠した(歌詞は実話ではない)というナンバー。導入では音数を極限まで少なくしており、メロディの美しさがより強調されている。エズラの表情豊かなヴォーカルに引き込まれる。
07EVERLASTING ARMS
パーカッシヴなビートをはじめ、アフリカのポップ・ミュージックのテイストを取り入れたような生命感に満ちたサウンドが力強い。“主の御手”とも訳されるタイトルからもわかるように、神を強くイメージさせる歌詞も印象的。
08FINGER BACK
トリッキーなドラムのビートとシンプルなリフで幕を開けるロックンロール・ナンバー。ルーツっぽさを残しながら、宗教音楽までをも取り込むセンスはさすが。イスラム教にまつわる言葉も登場する歌詞を早口で歌い上げるヴォーカルも楽しい。
09WORSHIP YOU
オリエンタルな雰囲気を感じさせるサウンドから、超高速でまくし立てるようなヴォーカルによる歌い出しに驚かされるポップ・チューン。かと思えば、リヴァーブを効かせてスケールの大きなメロデイを歌うサビに展開するなど、アレンジも自由自在だ。
10YA HEY
ヤハウェ(Yahweh)をもじったと思われるタイトルを冠したスケールの大きなナンバー。“you”に対してさまざまなことを問いかけながら、中東情勢やアメリカへの想いを綴った重厚な歌詞を、聖歌隊のようなコーラスをバックに歌い上げる。
11HUDSON
探険家ヘンリー・ハドソンのエピソードで幕を開けるナンバー。そこからアメリカの歴史にまで物語は広がりを見せるが、サウンドも含めて全体を覆うのは重苦しい空気。“線が引かれる 地図なんて実に鬱陶しい”と歌うラストが胸に刺さる。
12YOUNG LION
3rdアルバムのラストを飾るのは、“若きライオンよ じっくり時間をかけるんだ”という象徴的なメッセージを繰り返し歌い続ける2分弱の小品。アナログっぽい温かいサウンドに、賛美歌を思わせる美しいコーラス・ワークが映える。
13YA HEY
“Paranoid Styles”と名づけられたリミックス。ヤハウェ(Yahweh)をもじったと思われるタイトルをはじめ宗教色の強いナンバーだが、電子音楽的な味付けにも不思議と違和感はなし。祝祭的な雰囲気をよりいっそう感じさせる。
14UNBELIEVERS
3rdアルバムの日本盤にボーナス・トラックとして収録された“Seeburg Drum Machine Mix”。ヴィンテージならではのユニークなビートを中心としており、そのほかのサウンドは抑えめ。メロディの美しさがあらためて味わえる。