ミニ・レビュー
98年から彼女が広末涼子やPUFFY、TOKIOなど他アーティストに提供してきた楽曲を、初めてセルフ・カヴァー。新進気鋭のアレンジャーたちが手掛けた楽曲は、セルフ・カヴァーの概念を完全に飛び越えた新たな作品群に。“さすが椎名林檎”と唸らせられる出来である。
ガイドコメント
2014年5月27日リリースのセルフ・カヴァー・アルバム。デビュー15周年記念のトリを飾るのは、他アーティストへの提供楽曲を新たにアレンジしたセルフ・カヴァー集。大沢伸一、大友良英、小林武史、冨田恵一、前山田健一ら豪華な面々が参加。
収録曲
01主演の女
PUFFYが歌唱したオリジナルと比べて一層スリリングさを増した印象だ。『あまちゃん』の劇伴でも知られる大友良英のアレンジは、繊細でありながらも剛胆。ビッグバンドによる豪勢なジャズ・ビートがハイテンションに鳴らされているのが痛快だ。
02渦中の男
無機質でヴァイオレンスなサウンドスケープから、近未来世界を連想させるアッパー・チューン。ドラムンベースの高速リズムを基軸としたエクスペリメンタルなサウンドが刺激的に鳴らされている。TOKIOへの提供曲をカヴァー。
03プライベイト
“ヒャダイン”こと前山田健一がアレンジを施したテクノ・ポップ・チューン。広末涼子への提供曲をリアレンジしたものだが、アイドル・ソングの装いを持つキュートさはオリジナルを踏襲しており、ミッド・テンポの中に響く声も伸びやかで可愛いらしい質感だ。
04青春の瞬き
女優の栗山千明が歌っていたオリジナルを、冨田“ラボ”恵一が椎名林檎の色調に見事に染め上げたバラード。少女から大人へと羽ばたいていく少女の心情を、ストリングスをフィーチャーした極上のサウンドに乗せてロマンティックに描いている。
05真夏の脱獄者
SMAPに提供したオリジナル曲を準拠としながらも、林檎節が随所に光るグルーヴィなポップ・ナンバー。ブラック・ミュージックを背景とした曲調が大沢伸一らしいグッド・アレンジで、全編英詞で紡がれていく詞世界にとてもマッチしている。
06望遠鏡の外の景色
野田秀樹の舞台劇『エッグ』に提供した曲をリアレンジ。村田陽一が手がけた緻密に積み上げられたサウンドには、職人技を感じずにはいられない。異国の地にトリップさせられるようなノスタルジーに浸る演奏が美しくも物哀しい余韻を残す、ジャジィなインストゥルメンタル・ナンバー。
07決定的三分間
東京事変「能動的三分間」と同じコンセプトで栗山千明に提供した原曲と比べてもエッジを効かせ、セクシーな歌声で魅了。横揺れのシャッフルビートの中に広がるデジタリックな音像が、インダストリアル・ロックにも通じる退廃的な世界観を生み出す。アレンジは中山信彦が担当。
08カプチーノ
日本を代表するプロデューサー、小林武史がアレンジを手がけたギター・ポップ・ナンバー。オリジナルの世界観を尊重しているかのように、負けず劣らずのセクシーなヴォーカルを披露する。随所に散りばめられた音のすべてに“コバタケイズム”が刻まれているようだ。
09雨傘
全編英詞で展開される歯切れの良いガーリー・ロック。爆走するロック・ビートに絡みつくノリノリの歌声が痛快で、バンド・サウンドならではの躍動感とダイナミズムを体現している。オリジナルを歌唱するTOKIOのグルーヴ感と比較するのも面白い。
10日和姫
一気に駆け抜けていく疾走感がまたとない魅力のパンキッシュなナンバー。売れっ子アレンジャー、日高央の描くサウンドはとにかくエネルギッシュ。ルーズでラウドにかき鳴らされる歪んだギターにせよ、一発録りのような迫力と緊張感をもたらす。
11幸先坂
映画『さよなら渓谷』で真木よう子が歌唱した楽曲を再構成。アコーディオンの淡く物悲しい音色を背景に、切々と紡がれる歌声にはまたとない説得力をもたらす。佐藤芳明が手がけたアレンジは、質素でありながらも濃密で迫力あるトラックを作り上げている。