ミニ・レビュー
「猟奇的なキスを私にして」「アソビ」を含むファースト・フル・アルバム。ヒップホップ、ジャズ、プログレなどを交えたアンサンブル、川谷絵音のエッジの立ったヴォーカルが高いレベルで融合している。ラヴェル「水の戯れ」をモチーフにした「列車クラシックさん」などクラシックのテイストを取り入れた楽曲も。
ガイドコメント
2014年10月29日リリースの、ゲスの極み乙女。のキャリア初となるフル・アルバム。両A面となった1stシングル「猟奇的なキスを私にして」「アソビ」を含む、全11曲を収録。彼らの“今”魅力が存分に詰まった一枚だ。
収録曲
01ラスカ
川谷絵音の内面を映し出した“言えない嘘は真実にして届けメロディ”というフレーズが強く脳裏に焼き付く。中盤から現れるファットなベース・ラインや焦燥と決意を往来するようなざわめくアレンジで、単なるポップに終わらせない作風が魅力。
02デジタルモグラ
ネットをモグラにたとえながら、ネットに依存しすぎる社会を“これが理想ってやつなんか?”と問いかける。ジワジワと切迫するイントロや憂鬱な顔色で口走るラップ調のフロウなどを経て、キャッチーなサビへ抜ける開放感が痛快だ。ドラマ『すべてがFになる』主題歌。
03crying march
無味乾燥な生活を“盛り上がりの欠けたドラマとたとえて自嘲していた”これまでに終わりを告げようとする男の歌。シャキシャキと刻むビート、波打つ鍵盤、ファルセットとともに押し寄せるクライマックスなど、ドラマティックな展開のダンス・ロックだ。
04星降る夜に花束を
「ゼロの理由は花束で」を原曲としたリアレンジ版。ジャジー・ヒップホップ/ピアノ・ハウスを基調とした黒いグルーヴが展開するトラックの上で、人なつっこいラップがとめどなく走る。美しいタイトルだが、求めていた愛の答えがもらえないという失望が募る歌だ。
05列車クラシックさん
ちゃんMARIのピアノで奏でるラヴェル「水の戯れ」を分解して作ったインストゥルメンタル・ナンバー。冒頭には“ガッタンゴットン”というコーラスが入るが、それ以降は瑞々しい音色のピアノが響くクラシックとして昇華している。
06猟奇的なキスを私にして
テレビ東京系ドラマ『アラサーちゃん 無修正』オープニング・テーマへ書き下ろしたシングル。従来の“4つ打ち+ラップ+サビ歌メロ”という作風から飛び出したバンド・サウンド的アプローチが魅力。素直になれない気まぐれな男女の恋愛ストーリーだ。
07サリーマリー
クセのあるシンセが鳴るニューウェイヴ風サウンドをアクセントにしたダンス・ポップ・ロック。センチメンタルなムードを携えながら叙情的な詞世界が展開するが、ショパン「子犬のワルツ」で終わらせるという着想が斬新だ。
08ruins
約50秒のインタールード的なトラック。タイトルは“廃墟”“荒廃”の意味で、夢の景色が廃れる前に愛しい記憶を思い出そうと繰り返す、悲壮から希望へ向かうための歌だ。アンビエントなバックコーラスと緊張を含んだドラムのフレーズの組み合わせも秀逸。
09アソビ
キャッチーな“パラリラパラリラ Fu-Fu”のフレーズでCMでも印象に残ったシングル。タイトルどおり“遊び”がふんだんに組み込まれた曲で、ジャズ・ファンクをベースに、多彩なアレンジで変化するのが楽しい。抜け出したいけど抜けられない微妙な気持ちを綴る。
10光を忘れた
鍵盤、ギター、ドラムによるフリーなジャズ・セッション風のアクセントを隠し味にしながら展開するダンス・チューン。あるときには見失い、失ってはじめてわかるというよくある心境を、川谷絵音風に描写。軽快ながらも切ないという展開がツボにはまる。
11bye-bye 999
川谷絵音の心の奥底にあるネガティヴな情念を吐き出したような内省的な詞世界で送るポップ・バラード。“999”は銀河鉄道999を示唆し、向かうべき行き先へ旅立つ自身を問う。ストリングスと鍵盤やコーラスが、壮大なドラマのエンディング風の演出に力を貸している。