ミニ・レビュー
ソロとしては5年ぶり5枚目となるアルバム。前半では初期にあった場末のキャバレーのような妖しさと下世話感が復活し、後半にドラマ主題歌「自由へ道連れ」やワールドカップ応援歌「NIPPON」など耳なじみの曲を配し、椎名林檎の成り立ちと今の姿を同時に見せてくれている。特典ディスクのPV集は妖艶。
ガイドコメント
前作『三文ゴシップ』以来約5年半ぶり、2014年11月5日リリースのアルバム。「ありあまる富」「自由へ道連れ」「カーネーション」「いろはにほへと」といったドラマ主題歌やサッカーテーマ曲「NIPPON」のほか、多彩な新録曲なども収録した力作。
収録曲
[Disc 1]
01静かなる逆襲
怪しげで気だるいムードが漂うジャズ・ロック歌謡風を構築するホーン・セクションが好演。危険だ、野暮ったいと罵りながらラストは“天晴よ東京”と言い切る、片意地なヴォーカルも痛快。肉欲的な歌唱や音に身震いしそうな出来だ。
02自由へ道連れ
クイーンの地獄に対し、林檎は自由へ道連れ。ドラムのカウントから疾走という言葉では生ぬるいほどの快感を帯びながら、胸の空くようなロック・サウンドを展開。恍惚に手をかけた歌唱で、自由への解放を叫ぶ。TBS系ドラマ『ATARU』主題歌。
03走れゎナンバー
いつでも返せる“ゎ”ナンバのレンタカーとどこへも返せない自身を対比した喩えが絶妙。フルートとクラヴィネットをアクセントにしたファンキーなグルーヴのオーガニック〜ネオソウルで、やや虚ろで投げやりなヴォーカルも強烈。
04赤道を越えたら
ブラジル音楽界の大御所、イヴァン・リンスがスキャットで参加したラテン・ジャズ風のアダルトなナンバー。男と女との関係を表裏一体とし、地球の生命までを問うスケールは林檎ならでは。ホーンも目立つが、多彩な表情で一歩も引かない林檎の歌唱も見事。
05JL005便で
東京とニューヨークを結ぶ就航便名を冠した、全編英語詞によるノスタルジックなナンバー。ローズピアノとアコーディオンがサウダージと非日常を結びつけるように強い印象を残す。かすれがかった歌唱も人生のやるせなさと切なさを伝えて美味。
06ちちんぷいぷい
タイトルの印象とは一転、モダンなラテン・ジャズ風で描くのは恋のスナイパーの姿。スパイ映画にも似合いそうなドラマティックな展開のなか、あなたのハート頂戴しますと犯行予告。ゴージャスなホーンが痛快。自身が出演した「isai VL LGV31」CMソング。
07今
SOIL“PIMP”SESSIONの面々を迎えて、静かなる情炎ともいえる内なる感情を吐露したラヴ・ストーリー。過去という私と未来というあなたが出会う瞬間(=今)の美しさとはかなさをムーディなジャズ・ブルースで描く。にじみでる官能と人間味に浸れる曲だ。
08いろはにほへと
伊澤一葉のチェンバロとストリングスが全体をもの悲しげなセピアな空間へといざなう。かりそめの色を取り払って本当の姿を知りたいと欲する女心を、林檎が芸者風にしゃなる声色で問いかける。フジテレビ系ドラマ『鴨、京都へ行く。-老舗旅館の女将日記-』主題歌となった12thシングル。
09ありきたりな女
消え入るようなかすれ声から幕を開けたかと思うと、意を決したかのような声高に張る歌唱が顔を覗かせる。無垢だった少女が愛する人を得た大人の女へと成長した過程を、ピュアを失ったという林檎らしい視点で描く。生命力に満ちたドラマティックな一曲だ。
10カーネーション
NHK連続テレビ小説『カーネーション』主題歌として書き下ろされた11thシングル。東京事変の面々とオーケストラを従え、モノクロの名作シネマ風の気品あるムードを演出。自身の苦難を振り返りがら、“愛”のために生きようと誓う女性の心情を綴る。
11孤独のあかつき
12thシングル「いろはにほへと」収録曲の英語詞ヴァージョン。流麗なストリングスの隙間から飛び出てくるようなエレクトロ・エフェクトが躍動感を生み出す、リズミカルなハウス作風だ。晴れ晴れとした快活さが印象的。
12NIPPON
2014 NHKサッカーテーマとなった13thシングル。“万歳!”“いざ出陣”などから含みある解釈も一部されたが、楽曲自体はグイグイと進む推進力と高揚が興奮を呼ぶ痛快な王道アッパー・ロック。生身の人間ゆえに味わえる悲喜こもごもの情感を詰め込んだ快作。
13ありあまる富
林檎らしいシニカルな描写ながらも、誰もが侵されることのない愛や個性を持っているんだと問いかける。詞曲とギターで参加したいまみちともたかのサポートを得ながら、安らぎも感じる歌唱を披露。TBS系ドラマ『スマイル』主題歌起用の10thシングル。
[Disc 2]〈DVD〉〈ミュージック・ビデオ〉
01ありきたりな女
02いろはにほへと
03カーネーション
04NIPPON
05自由へ道連れ
06ありあまる富