ミニ・レビュー
巨人の、あまりに見事な遺作。畑違いにいるNYのジャズ/セッション奏者を起用して行なう、渾身のストーリー・テリング。もうひとつの大地に降り立ち、彼でしかない振る舞いをするさまは格好良くも、感動的。最後まで、彼は先鋭的で、ロマンティックで、スタイリッシュだった。
ガイドコメント
前作『ザ・ネクスト・デイ』から約3年ぶりの自身の誕生日にリリースのアルバム。デビュー時から常にロック・シーンを牽引する彼の新たな表現方法によって生み出された一枚だ。
収録曲
01★
アルバム・タイトル曲。ジャズトロニックなビートと随所にアヴァンギャルドなサックスが挿入されるスリリングな展開から一転、受難から解き放たれたかのように、晴れやかな中盤を経て再び序盤の流れに戻るプログレッシヴな構成が印象的だ。
02'TIS A PITY SHE WAS A WHORE
声量こそ全盛期から見れば衰えているが、妖艶で引き込まれるようなヴォーカルは健在。グルーヴィに疾走するドラムをバックに、フリーキーなホーン・セクションとキャッチーなコーラスが絡み合うプログレッシヴな楽曲だ。
03LAZARUA
暗く鳴り響くギター・リフと印象的な音階の上り下りを繰り返すベース・ラインにあわせたボウイの歌声は悲痛な叫びのよう。“見上げてほしい、天にいる俺を”や“俺は自由になるだろう”など神話的な歌詞が綴られており、自身の死を持って完結したかのような一曲だ。
04SUE (OR IN A SEASON OF CRIME)
2014年にシングルとしてリリース。小刻みなリズムを構築するドラムンベースがグイグイと楽曲を先導していく。低音が強調された陰影のあるトラックの上で歌われる“この罪の季節の中では誰も償いなど求めない”といったアイロニカルな歌詞が続いていく。
05GIRL LOVES ME
ジャズ・ドラマーのマーク・ジュリアナによる無慈悲に響く強靭な人力ミニマル・ビートが、クラウトロックに通じる不条理と混沌とした空気を運んでくる。ボウイのヴォーカルは浮遊感があり、ビートとの濃淡が強調されている。
06DOLLAR DAYS
メロウな旋律を奏でる哀愁を帯びたホーンは、奇抜さを抑えたしっとりとしたボウイのヴォーカルとマッチしている。“俺は落ち始めているのだ”と自らの堕落を自嘲するような歌詞は、ボウイの中にあるニヒリズムを感じさせる。
07I CAN'T GIVE EVERYTHING AWAY
弾むダンサブルなビートとジェイソン・リンドナーが奏でるシンセの伸びやかなストリングスが優麗な一曲。売れ線のキャッチーなメロディとは裏腹に“全てを与えることはできない”という、なかば諦念のような陰鬱な歌詞が綴られていく。