ミニ・レビュー
近年のプライマル・スクリームから遠ざかっていたエモーショナルでポップなサイケデリック・ロックが、本作では見事に復活。ビヨーン・イットリングやスカイ・フェレイラ、ハイムらフレッシュ勢のゲスト起用もプラスに働き、ボビー・ギレスピーの歌も心なしか若々しい。11枚目のアルバム。★
ガイドコメント
3年ぶり、通算11枚目のオリジナル・アルバム。スカイ・フェレイラとデュエットした「ホエア・ザ・ライト・ゲッツ・イン」をはじめ、ガールズ・バンドのHAIMやキャッツ・アイズのレイチェル・ゼフィラがゲスト参加。
収録曲
01TRIPPIN' ON YOUR LOVE
ファンキーなギターと呪術的なリズムが刻まれていくダンサブルな一曲。名曲「カム・トゥゲザー」のシングル・ヴァージョンを思わせるサイケデリックで多幸感にあふれたアレンジにボビーの甘いヴォーカルが乗る。米インディ・バンドのハイムが参加している。
02(FEELING LIKE A) DEMON AGAIN
チープなリズムに“ピューン”というSE。単音のシンセが味気なく奏でるリフと、ニューウェイヴの香りが漂うアレンジが利いた一曲。ねっとりとしたヴォーカルで歌われるサビの“また悪魔になったような気分”というリフレインは甘美な悪の美学に酔いしれるよう。
03I CAN CHANGE
リズムマシーンがたたき出すシンプルかつチープなリズムを土台に、オルガン、パーカッションが怪しく絡んだプライマル流のトロピカルなレイドバック・チューン。フィルターがかけられた吐息交じりの声が官能的に響く。
04100% OR NOTHING
EDMのビルドアップの要素を取り込んだ一曲。メロディやソウルフルなコーラスはどことなくカーティス・メイフィールドを思わせる。“怒りと 憤怒と 疫病が ぼくらの心にある”という人間の本質を覗き込んだような歌詞に目を奪われる。
05PRIVATE WARS
ギターとストリングスで構成された、シンガー・ソングライターものに似た一曲。“心を愛で満たし 激怒した心を癒そう”とスピーカーから滲み出てくるようなヴォーカルで内省的に歌う。希望に満ちた歌詞とマイナーなメロディのコントラストが印象的。
06WHERE THE LIGHT GETS IN
スカイ・フェレイラがヴォーカルとして、ビヨーン・イットリング(ピーター・ビヨーン・アンド・ジョン)がプロデューサーとして参加。売れ線なメロディときらめくシンセが絡むエレクトロ・パンクに乗せ、“情事の終わりは また死んだような気分”と諦念感を覗かせる。
07WHEN THE BLACKOUT MEETS THE FALLOUT
“ブリブリ”と地を這うように迫りくる低周波の無機質なビートのループが印象的な一曲。重く暗いトーンが終始支配するなかで“陰謀のアート”、“遺伝子の苦痛”などディストピアを描いたようなSF的な歌詞が並ぶ。
08CARNIVAL OF FOOLS
一発で聴き手の鼓膜を捉える電子音の粒がループするエレクトロなイントロからスタート。シンセの伴奏に乗って内省的なヴォーカルで“お互いに溺れているんだよね”と愛に飢えた男女の危なっかしくも魅力的な恋模様を綴っていく。
09GOLDEN ROPE
“この土地にはペストが蔓延している”という世紀末を思わせるような不穏な歌詞から始まるロック・チューン。エレクトロなトラックとルーズなギターの絡みは、ストーンズのR&Bを2010年代にトレースしたよう。
10AUTUMN IN PARADISE
『テクニーク』『ロウ・ライフ』期のニュー・オーダーを思わせるエレクトロ・チューン。身体にまとわりつくように気だるいヴォーカルを、せつないリフを奏でる透明なギター・サウンドで包む。“セカンド・サマー・オブ・ラブ”を経験したバンドだからこそのサウンドだ。
11WHERE THE LIGHT GETS IN
ウーバーン・ズム・ハンザプラッツがリミックスを手がけた日本盤ボーナス・トラック。オリジナルに比べ6分ほど長い。太陽のようにキラキラと輝くシンセが降り注ぐサビの高揚感で、トランス寸前になってしまう。