ミニ・レビュー
2000年以降に発表された楽曲から選ばれた20年ぶりのベスト。近年は懸命に生きる人への讃歌が多い印象だが、それが顕著に聴きとれる作品群だ。過去も大切だが、生きていくことで新たな思い出が作られる事実に気づかされた。初の本人ライナーが封入され、パッケージを購入する意義も感じる一枚。★
ガイドコメント
2016年11月16日リリースのベスト・アルバム。“前だけを見る”という思いを込めたタイトルどおり、「地上の星」をはじめ「宙船(そらふね)」や「麦の唄」など、“この先の未来を歩む人へ向けて”選曲された楽曲を収録している。
収録曲
01銀の龍の背に乗って
フジテレビ系ドラマ『Dr.コトー診療所』主題歌として知られるシングル。近づいては離れていくコーラスのコントラストが心地よく、一気に音数が増えるサビの盛り上がりは鳥肌もの。立ち上がれないほどに傷ついた人を鼓舞する歌詞も素晴らしい。
02地上の星
NHK総合テレビ『プロジェクトX〜挑戦者たち〜』の主題歌として人気を誇る37枚目のシングル。戦場に赴く陣太鼓のように力強く叩かれるドラムが支える土台の上で、伸び伸びと歌い上げる。市井の人を“地上の星”とたとえ、その煌きを綴る。
03泣いてもいいんだよ
ももいろクローバーZ、11枚目のシングルの表題曲として提供した楽曲をセルフ・カヴァー。オリジナル・ヴァージョンよりBPMは落としてあるが、メッセージの強い歌詞の一言一言が鈍器のように重く響く。深みのある歌声はオリジナルよりも母性を感じさせる。
04常夜灯
ジャジィで軽くスウィングする哀歌。恋人が帰ってこないことに心を痛めているにも関わらず、“常夜灯が点いているから”寂しくないと強がる女性像は、代表曲「悪女」で描かれた女性の姿にも通じる。情念を感じさせるヴォーカルの表現力にも脱帽。
05Nobody Is Right
さわやかなホーンの音色からスタートし、さらにゴスペル・コーラスが加わった“正しさ”をテーマにした壮大な一曲。“世の中には正しい人はいない”という立場から発せられる“争う人は正しさを説く”という達観したメッセージを送る。
06宙船 (そらふね)
TOKIOの35枚目のシングルとして提供した楽曲のセルフ・カヴァー。“その船を漕いでゆけ”という印象的なサビからスタート。腹の底から発せられる力強い歌声で、挑戦する人を大海に飛び出す船に例えたメッセージ・ソングを歌い上げる。
07倒木の敗者復活戦
傷ついた者、打ちひしがれた者を倒木に例えた壮大なバラード・チューン。“望みの糸は切れても 救いの糸は切れない”というフレーズで、うつむいた顔を上に向けさせると“傷から芽を出せ 倒木の復活戦”と挑戦する気持ちに火をつける。
08Why&No
ラフでエッジーなギターが印象的なロック・チューン。“なぜだめなの”というタイトルどおり、同調圧力や孤立を恐れずに意見を述べることの大切さを説いた歌詞は“つながり”が重要視される時代への警鐘にもきこえる。
09India Goose
自力でヒマラヤ山脈を飛び越えていくという“インド雁”に人の生活をなぞらえた応援歌。人よりも小さく弱い鳥が集まり飛ぶ様子をつづり、“飛びたて 飛びたて 戻る場所はもうない”と歌いかけて、不退転の覚悟を決めさせる。
10産声
ピアノとストリングスの流麗な演奏で進んでいく一曲。“時は戻らない”という諦めに似たようなセリフも、力強いヴォーカルで歌われると“過去を悔やんだり、過去を美化したりすることをやめて、歩を進めよう”と伝えているかのように響く。
11麦の唄
NHK連続テレビ小説『マッサン』の主題歌として知られる44枚目のシングル。日本でウィスキーを造ることを目指した夫婦のストーリーに因み、スコッチ発祥の地・スコットランドの民族楽器バグパイプを使用。ヴォーカルも、スコットランドの広い麦畑のように雄大。
12ヘッドライト・テールライト
NHK総合テレビ『プロジェクトX-挑戦者たち』の主題歌として知られ、「地上の星」と両A面となった37thシングル。暗い夜道をヘッドライトやテールライトを頼りに走る車と世に名を残すかもわからない市井の人の奮闘を重ね合わせた、壮大なバラードだ。