ガイドコメント
98年発表の3rdアルバム。ヒップホップ誌『Source』において“マイク5本”の最高評価を獲得した名盤だ。亡き女性活動家に捧げた「ロザ・パークス」などのヒット曲が収録されている。
収録曲
01HOLD ON, BE STRONG
「持ちこたえろ、強くなるんだ」とのフレーズが繰り返される、アルバム『アクエミナイ』の1分少々のイントロ。アンドレが奏でるカリンバ(アフリカの民族楽器)の幻想的なメロディとヴォーカル・フレーズの裏メロをとるようなベース・ラインが面白い。
02RETURN OF THE "G"
「ギャングスタが帰ってきたぜ」と歌われているが、ギャングスタ・ラップに別れを告げているような濡れた雰囲気が漂うナンバー。元ネタはドナ・サマーなどのプロデュースで名高い、ジョルジオ・モロダー作の「Midnight Express」。
03ROSA PARKS
タイトルはアメリカの公民権運動の活動家、黒人の社会的地位向上につくした女性のこと。彼女に対しての敬意が見え隠れする内容だが、表現は下世話。かわいたハーモニカ・ソロを奏でるだけでは終わらない、人種差別への苛立ちが音色から感じられる。
04SKEW IT ON THE BAR-B
フックで披露されるライミングは通りいっぺんで初々しさが残る、オーガナイズド・ノイズの参加作品。派手さはないが、レッド・ホット・チリ・ペッパーズの出世作「ファイト・ライク・ア・ブレイヴ」に出てくる「ゥウラァッ」が聴ける。
05AQUEMINI
アルバム・タイトルとなったアクエミナイとは、アンドレ、ビッグ・ボーイの星座(アクエリアスとジェミニ)を組み合わせた造語。2人の結束が歌われる内容を聴くと、1人がまったく関わっていない作品でもアウトキャストとクレジットされる理由がよくわかる。
06SYNTHESIZER
ジョージ・クリントンのファンキー・ウィスパーが曲全体を包み込むエレクトロ・ファンク。ゴッド・ファーザーを囲むアンドレとビッグ・ボーイのスタイルを異にするラップがメリハリをつけ、物憂げなトラックに喝を入れている。
07SLUMP
バックボーン、クール・ブリーズを迎えての定番マイク・リレー・ヒップホップ。ルート音がどこにあるか分からないような生ベースが、落ち着かない雰囲気を醸し出している。頻繁に登場する赤ちゃんヴォイスは、アンドレの子供の声だそうだ。
08WEST SAVANNAH
アンドレは登場せず、ビッグ・ボーイとオーガナイズド・ノイズだけによる作品。全体的に荒削りな印象はあるが、ゴリゴリ・ベースとダブっぽいホーンを従えて、ビッグ・ボーイが安定感のあるオールド・ファッションなラップを聴かせてくれている。
09DA ART OF STORYTELLIN' (PART 1)
美しくゆったりしたエレピと控えめに鳴るパーカッションが、バスドラ過多の攻めのリズムと好対照で面白い。シンプルなヒップホップだが、ビッグ・ボーイのライムの帰結のさせ方が明快で楽しく、思わずかけ声参加を試みたくなる。
10DA ART OF STORYTELLIN' (PART 2)
アルバム『アクエミナイ』での前曲、パート1の続編だが、流用部分はまったくなし。エッジの効いた電話エフェクトをかけたアンドレのフックが、やたらと攻撃的で耳に残る。黒人が受けてきた抑圧をラップで綴る詞世界を、重厚なリズムと低音のピアノ・リフが補強している。
11MAMACITA
固いスネアの音が銃声のように響き、閉息感がマイク・リレーされるヘヴィなナンバー。フックでのアンドレと女性ラッパーのマサダ・ホーガンがやりとりするメロディはとても悲しく、最後に登場するビッグ・ボーイのパートは怒りに満ちている。
12SPOTTIEOTTIEDOPALISCIOUS
曲のメインになっている生ホーンのフレーズが、スカ風で思わず和んでしまうナンバー。「THE WAY YOU MOVE」のサビで登場するスリーピー・ブラウンがマイク・リレーのトップで登場し、独特の甘ったるい声を披露している。
13Y'ALL SCARED
グッディ・モブの3人が参加の、ヒップホップの古典「俺は負けないぜ」形式のラップ・ソング。内容重視なだけに、バック・トラックのメロディ楽器はラップを盛り立てるのに専念。ビッグ・ボーイの高速ラップのスキルは、他をよせつけない迫力だ。
14NATHANIEL
曲名の「NATHANIEL」はネイサンと省略されることが多い男性の名前。このトラックは音楽ではなく、粗野な録音機で収録されたような音声で、服役囚の愚痴が語られる演出。インタールードというよりも、メッセージ・トラックと呼ぶ方が適切かもしれない。
15LIBERATION
シー・ロー、エリカ・バドゥ、ビッグ・ルーベを招き、「リベレーション」=解放について論を重ねていく哲学的なナンバー。エンディングは、ピアノを中心とした生楽器の演奏が延々と続くアレンジで、アウトキャストならではのシンプルなメッセージ・ソングとなっている。
16CHONKYFIRE
シンセのフレーズとワウのかかったディストーション・ギターが、シャープな仕上がり。アウトキャストにしては珍しいプログラミングによるリズム・セクションで、ヒップホップ然としていない。彼らの個性が改めて感じられる、斬新なナンバーだ。