ミニ・レビュー
デビュー曲(1)から97年リリースの(15)まで、発表順に収録された初のコンプリート・シングル・コレクションの前編。まだ青さの残るヴォーカル、勢いづいたサウンドが、やがてブレイク曲(11)を通じて本質にたどりつき、進化し始める……といった軌跡がうかがえる。
ガイドコメント
デビュー15周年記念日にリリースとなった、初のメンバー公認・公式のシングル・コレクション・アルバム。91年から97年までのシングルを網羅、「空も飛べるはず」「ロビンソン」など数々のヒット曲を堪能できる。
収録曲
01ヒバリのこころ
“僕らこれから強く生きていこう”……、未来への決意を力いっぱい歌う正宗の声も瑞々しい、91年のデビュー曲。どこか懐かしいメロディにヘヴィなサウンド、というスピッツならではの歌謡ロック・スタイルは、今だ鮮烈。
02夏の魔物
夏の生ぬるい風が頬を撫でていくような、そんな心地よい疾走感を携えた抒情派フォーク・ロック。どこか儚げな“二人”を描いたリリックは、難解ながらも夏の情緒たっぷり。聴くほどに切なさを掻き立てる、初期の名ナンバーだ。
03魔女旅に出る
旅立つ“君”を見送る心情を、ファンタジックな詞の世界とスケール感溢れるストリングス・サウンドで描いたハートフル・ナンバー。“いつでもここにいるからね”と、“待ち”のスタンスを取るやさしい別れの歌は、正宗ならでは。
04惑星のかけら
耳を貫くようなヘヴィ&ラウドなリフの上に、不気味なまでに静かに展開していく“君”への欲望と妄想……。グランジ特有の仄暗い空気感に、正宗のシュールな詞世界が見事に溶け込んだ、初期のロック・ナンバーの傑作。
05日なたの窓に憧れて
“君に触れたい”……、弱気な“僕”の憧れがひたすらリフレインし、広がっていくさまは、あまりに美しく切ない。ドリーミーなサウンドが完璧なまでに溶け合った、甘美で儚い正宗ワールドが展開する、スピッツならではの珠玉の恍惚系ロック。
06裸のままで
部屋の片隅で妄想に耽っていた少年が、遂に外へ飛び出した! そんな感じの突然変異を見せた、カラフルなポップ路線の6th。陽気なホーン&ストリングスのアレンジは、PVでドデカイ蝶ネクタイをつけた正宗の姿とぴったり。
07君が思い出になる前に
果てない航海へ出る主人公は、一緒には行けない”君”に、「優しいふりだっていいから」と笑顔を乞う。想い出になってしまう前に……。穏やかな大海を思わせる、伸びやかなメロディで綴られる、美しくも儚いラヴ・ストーリー。
08空も飛べるはず
ドラマ『白線流し』の主題歌起用をきっかに、ロング・ヒットに。イノセンスとセンチメントが溶け合う、珠玉のアコースティック・バラードである。空も飛べる“はず”だよなあ、というどこか弱気な感が、まさにスピッツ・カラー。
09青い車
“君”と行く海へのドライブに“生の真理探し”というテーマを重ねた、圧倒的なスケール感を放つフォーク・チューン。瑞々しさとキラメキを放ちながら爽やかに駆け抜けるサウンドは、まさに夢に落ちていくような心地良さ。
10スパイダー
かわいい君が汚される前に、僕が連れ去ってしまいたい。そんな想いを、軽快かつ煌びやかなリフに乗せて綴るアコースティック・ナンバー。シュール&キュートなマサムネ・ワールドは、女の子へのイノセントな憧れでいっぱい。
11ロビンソン
思春期のわけもない切なさと、日本の原風景が溶け合い、宇宙へと舞う……。「誰も触れない二人だけの国」の国家は、儚くもロマンにあふれ、日本人の我々に、どこまでも懐かしい。日本中をスピッツ・カラーに染め上げた大出世作。
12涙がキラリ☆
浴衣姿の君を、ホントはちょっと触りたい……。思春期の胸キュンな一夜を綴る、情緒あふれるサマー・チューン。天の川のごとく、煌びやかかつダイナミックに轟くギターを背景に、マサムネの歌声はどこまでも爽やかで、やわらかい。
13チェリー
草野マサムネが描く世界観は角のない柔らかさがあり、とても優しい。メロディの響きにはどこか寂しげな雰囲気が漂う。温かさのなかに感じるチクリとした痛みに、じわじわと切なさがにじみ出てくるのは、彼らの持つ魅力のひとつだろう。
14渚
優しく響く草野マサムネの声と、幻想のなかを泳いでいるかのようなフワリとしたサウンドが、頭のなかにゆったりと流れてゆく澄んだ水のイメージを描かせる。曲全体が儚くも強いオーラを放ち、音の響きにいつまでも浸っていたくなるような気分を運ぶ。
15スカーレット
ゆらめく陽炎のごとく切ないアルペジオの響きと、毛糸のごとくやわらかい質感のマサムネ・ヴォイスが織りなす、温もりあふれるラヴ・バラード。やさしいスピッツ・ワールドは、淋しがりな僕らを、いつでもそっと包み込んでくれる。