ガイドコメント
カントリー・ミュージックに傾倒し、過去の作品からは想像もつかなかった美声で歌うという劇的な変化が大きな話題を呼んだ1969年発表の10作目。メロディアスな曲を多く収録。
収録曲
01GIRL FROM THE NORTH COUNTRY
ジョニー・キャッシュとのデュエットによる名曲の再演。ナッシュヴィル産カントリー・サウンドをバックに、どちらも譲らぬ唯我独尊の歌声を披露する。生まれ変わったようなディランの滑らかな美声とキャッシュの低音ヴォイスとの共演は、予想以上に喜劇的だった。
02NASHVILLE SKYLINE RAG
ディランのレコードでは初のインストゥルメンタル曲。マウスハープ、ペダル・スティール・ギター、スライド・ギター、アコギ、ピアノなどのソロをフィーチャーした、典型的なカントリー&ウェスタン・スタイルの演奏が楽しめる。
03TO BE ALONE WITH YOU
R&B調のロック・チューン。カントリー調の曲ではないが、子供にでもわかる単純明快なラブ・ソングだから、新機軸の滑らかな美声で歌う必然性がないわけでもない。だが、以前のダミ声で歌ったら、それはそれで似合っていたはずの曲であることも間違いない。
04A THREW IT ALL AWAY
ゴスペル・カントリー調の美しいバラード。ジェントルなサウンドをバックに、滑らかな美声で「愛がすべて/それが世界を動かしている」と歌い、それに気づかなかった過去を嘆いている。7年後のライヴ盤『ハード・レイン』収録のライヴ・ヴァージョンも要チェック。
05PEGGY DAY
ピート・ドレイクのペデル・スティール・ギターをフィーチャーした、牧歌的なカントリー・サウンド。滑らかな美声で「ペギー・デイが俺のハートを盗んじゃった」と歌うディランがおかしい。大袈裟なエンディングも含めて、一篇のコミックのようなラブ・ソング。
06LAY, LADY, LAY
1969年のナッシュヴィル録音による名曲。メロディ・メイカーとしての彼の才能を再認識させたカントリー調のスウィートなラブ・ソング。ディランらしからぬ澄んだ美声が多くのファンを戸惑わせたが、全米チャート7位のヒットを記録している。
07ONE MORE NIGHT
自分を裏切った女への未練を歌うカントリー調のバラード。アコギのリード・ギターをフィーチャーしたカントリー・ロック・サウンドをバックに、ディランのヴォーカルがなぜかハワイアン調になっているところが面白い。西部劇にフラダンスが出てきたみたいだ。
08TELL ME THAT IT ISN'T TRUE
力強いカントリー・ロック調のバンド・サウンドをバックに、情けない男が浮気女に懇願する歌詞をディランが滑らかな美声で堂々と歌う。アコギのソロも秀逸。好悪はともかく、美声のカントリー歌手を演じるディランの名唱も含めて、これはこれで見事な名演。
09COUNTRY PIE
陽気なサウンドと呑気な歌声で楽しませてくれるカントリー・ロック版ナンセンス・ソング。マザーグースの“Little Jack Horner”も登場するコミカルな歌詞も楽しい。100秒足らずでフェイド・アウトしてしまうのが惜しくもあるが……。
10TONIGHT I'LL BE STAYING HERE WITH YOU
1969年のアルバム『ナッシュヴィル・スカイライン』からのシングル曲。ペダル・スティール・ギターを配したカントリー・ロック・サウンドに乗って、ディランが滑らかな美声で「今夜は君と一緒にここに留まるよ」と歌う優れたラブ・ソング。