ガイドコメント
『アクトン・ベイビー』『ZOOROPA』での顕著な実験精神の展開形となった97年作品。爆笑ビデオもステキなヒット・シングル「ディスコテック」をはじめ、ポップとロックがU2的に融合した傑作。
収録曲
01ディスコテック
享楽的でダンサブルなナンバーは、ピーター・ガブリエルの「スレッジハンマー」を意図したそう。テクノへの接近が話題を呼ぶが、曲調はむしろストーン・ローゼズ「ベギング・ユー」を思わせる。全英1位、全米10位。
02ドゥ・ユー・フィール・ラヴド
“元ネタ”としてネイキッド・ファンクの名がクレジットされているとおり、トランシーな曲調は彼らの「Alien Groove Sensation」を思わせる。アダムの淀みないリフを中心としたミニマルなリズム・パターンが特徴的なナンバー。
03モーフォ
『ポップ』収録曲中、もっとも電子の世界に漬かっているデジタル・ロック・ナンバー。彼らは“21世紀版レッド・ツェッペリン”としての側面も持たせたかったらしく、ノイジーな音の皮膜の下には相通じるグルーヴがある。
04イフ・ゴッド・ウィル・センド・ヒズ・エンジェルス
神様が天使を寄こさないのは、電話の受話器が外れているからだと歌うゴスペル・ナンバー。信仰心厚いボノによる戯画的描写を交えた神への皮肉が興味深い。優しげなサウンドだが、ときおり挿入されるSF風効果音が謎めいている。
05ステアリング・アット・ザ・サン
ラリーがドラム・ループを使っているが、その趣はかなりクラシック・ロック調。メロディやギターのニュアンスにニール・ヤングが憑依したかのような瞬間がしばしば訪れ、じっくりと聴かせる。全英3位、全米26位。
06ラスト・ナイト・オン・アース
ジャズ・ユニット“コドナ”の「Trayra Boia」を引用した、クールでドライなサウンド。曲題どおり終末論をテーマにした曲だが、持ち前の信仰心ゆえか歌詞には何やら悟り切った雰囲気がある。全英10位、全米57位。
07ゴーン
かつての「ブレット・ザ・ブルー・スカイ」をアレンジし直したようなダークでクールなナンバー。ねっとりとしたリズムを練り続けるベースに、ギターは金属的なフレーズで対抗。まるで火花が飛んできそうな音色だ。
08マイアミ
ザラザラとしたドラム・サウンドによるイントロなど、インダストリアル・サウンドを基調としたエクスペリメンタルなナンバー。バック・トラックでの鋭敏さと、“Miami My mammy”と韻を踏む脱力ぶりとの落差もまた魅力。
09ザ・プレイボーイ・マンション
マイケル・ジャクソンや整形手術、そして教会などを、エスプリの利いた言い回しで皮肉ったナンバー。ゆらりとした曲調を太く安定したベース・ラインが貫いている。バーズのレア音源「You Showed Me」をサンプリング。
10イフ・ユー・ウェアー・ザット・ヴェルヴェット・ドレス
『ズーロッパ』制作時に書かれていながら未収録に終わった曲を再利用。魅惑的な月夜を、スローなテンポの曲調で囁くように活写する序盤。途中で加わるギターやベースが、楽曲を艶やかかつストレンジな雰囲気に改変させていく。
11プリーズ
母国アイルランドをテーマにした政治的な曲で、全英7位を記録したシングルのジャケットには、当地の政治家らの写真も使用。ゆっくりとドライヴするトラックはクールだが、歌詞同様の閉塞感は、かすかな息苦しさも。
12ウェイク・アップ・デッド・マン
無秩序化する世界に救いの手を差し伸べない神に対し、ボノが懇願するナンバー。宗教的でもあり政治的でもある歌詞の重みに比例し、曲調も重厚でダウナー。ブルガリアン・ヴォイス「Besrodna Nevesta」をサンプリング。
13ホリー・ジョー (ギルティ・ミックス)
シングル「ディスコテック」のカップリング。曲題は“信心家”の意だが、音を垂れ流しているような序盤でのギターは、むしろ不穏当な空気を形成。3分過ぎからのパーカッションが、やけに耳の近くで鳴っている錯覚に陥る。