ミニ・レビュー
同時に3セット(各2枚組)発売されたシングル・コレクションのうちの1セット。これはデビューから6年目までの楽曲が収録されており、ソングライターだけではなくヴォーカリストとしてもずいぶん変化があったことが感じ取れる内容だ。
収録曲
[Disc 1]
01巡恋歌
冒頭のハーモニカのメロで、早くも胸が締め付けられる。か細い音色のアコースティック・ギターに乗せて、感情たっぷりにむせぶような歌唱は痛々しいほど切ない。女性の視点からの詞は、新鮮に染み込んでくる。
02帰り道
再デビュー・シングル「巡愛歌」のB面収録曲。恋人を駅まで迎えに行った帰り道という日常の1コマをテーマにしたラブ・ソング。当時の透き通るような綺麗な歌声とファルセットを交えたソフトな歌いまわしが印象的。
03俺らの家まで
浮気を認めた上で恋人に「機嫌なおして」と歌いかけるライト・ポップ・ナンバー。フィドルやバンジョーなどを駆使したカントリー&ウェスタン調の軽快なバッキングと実は一言も謝っていない歌詞がよくマッチしている。
04ジャック・エンジェル
憧れの“ジャック・エンジェル”を歌った弾き語り風ナンバー。全編にわたって繰り広げられるアルペジオ・ギターと間奏の室内弦楽団風ストリングスの爽やかなサウンドが印象的。シングル「俺らの家まで」のB面収録曲。
05祈り
長渕の得意とする、儚さたっぷりの悲恋歌。愛が終わってしまった悲しみ、悔やんでも悔やみ切れない男の嘆きを、つぶさに表現することに成功している。寂しさの念を壮大に描く、ストリングスも聴きどころ。
06恋のランデブー
男女の駆け引きをテーマにしたシャッフル基調の歌謡ロック・ナンバー。“唇が欲しい”や“やさしい乳房”など、赤裸々な言葉を織り交ぜた歌詞が特徴的。石川鷹彦ならではのギターを前面に出したアレンジも聴きどころ。
07春待気流
“君への愛”を高らかに誓うポップ・ナンバー。女性コーラスや半減速するBメロなど、アメリカン・オールディーズ風のキャッチーなアレンジが光る。サビ・メロディでのフニャフニャとした歌いまわしが実に心地良い。
08冬の海
マイナー調の物悲しいフォーク・バラード。波打ち際で帰らぬ恋人を思い起こす切ないナンバーで、「祈り」で歌われた女性を連想させる。アコギのアルペジオと叙情的なマンドリン、サビ終わりのファルセットなどが印象的。
09順子
大胆にもタイトルに女性の名前をそのまま当てはめたことからも、絶大なインパクトのあるバラード。どうしようもない絶望感が滲み出た直情的な詞も、つぶらな切ないメロディも、すべてが悲しい。絶妙な切り口の恋歌だ。
10涙のセレナーデ
フォルクローレの要素を採り入れた歌謡ナンバー。フラれた女性の気持ちを歌った失恋ソングで、Aメロにもサビにも登場するファルセットを交えたメロディが印象強い。長渕剛初の大ヒット・シングル「順子」B面収録。
[Disc 2]
01ヒロイン
泡沫の恋における女性の切なくも情熱的な想いを綴ったナンバー。コード進行とメロディは歌謡曲的だが、瀬尾一三の巧みなアレンジによってメリハリのある仕上がりに。アコーディオンの柔らかいサウンドがいかにも女性的。
02Da!Da!Da!
フォークや歌謡曲的要素の抜けた明るいポップ・ロック曲。長渕剛なりのフォーク音楽を完成させたアルバム『乾杯』を経て、後に音楽性の幅を広げていく彼の隠れた布石とも言える1曲。編曲を自身が手掛けている点にも注目。
03夏の恋人
ミディアム・テンポのサマー・ポップ・ソング。夏の浜辺で見かけた女性に心をときめかせるが声をかけられないでいるという歌。間奏のギター・フレーズからAメロ、サビまで、一貫して似通った符割りの旋律が展開される。
04クレイジー・ボーイ
グルーヴィなロックンロール・ナンバー。随所でハーモニカ・ソロが展開されるなど、ブルースの要素を採り入れた曲調が特徴的。粘り気のある独特の歌いまわしで、デビュー直後に比べてだいぶ個性が出てきている。
05二人歩記
アルバム『Bye Bye』からシングル・カットされた人気バラード曲。適度に個性の出た歌唱と純粋な歌詞、美しいストリングスなどが絶妙に重なりあった完成度の高い1曲。石野真子との結婚が決まった際の心境がテーマ。
06少しだけほほえみが
弾き語り調の穏やかなフォーク・ナンバー。ほとんど変化のない淡々としたバッキング演奏やサビ後のチャーミングなハミングなどが特徴的。左右2本のアコギとハーモニカのすべての楽器を長渕剛が演奏している。
07花いちもんめ
「うぉー」の雄叫びで始まる歌謡ロック。1〜10までに語呂を合わせた遊び心のある歌詞とブラス・セクションを迎えた厚いアンサンブルが特徴的。“おっとどっこい危険だぜ”など、長渕剛にしか歌えない言葉に注目。
08日めくりの愛
相手を愛すれば愛するほど独りの時間が寂しくなるという、恋愛の定めをモチーフにしたラブ・バラード。シンプルなギターの弾き語りで始まり、次第にバンドやストリングスが重なっていくドラマティックな展開が魅力。