ミニ・レビュー
自身の誕生日に「ホエア・アー・ウィ・ナウ?」を先行配信し衝撃の復活を遂げたボウイの、10年ぶりのアルバム。数年前から朋友トニー・ヴィスコンティと極秘で制作していた本作は、キレ味鋭いギターやホーンをバックにいつものボウイ節が全開。大病を患っていたとは思えぬエネルギッシュな作品だ。
ガイドコメント
2013年3月13日リリースの、約10年ぶりとなる通算30作目。これまで数多くの名盤を手掛けた盟友、トニー・ヴィスコンティがプロデュースを担当。これぞボウイな楽曲はもちろん、革新的なサウンドも収めた話題の一枚となっている。
収録曲
01THE NEXT DAY
10年ぶりの奇跡のアルバム『ザ・ネクスト・デイ』の冒頭を飾るタイトル・トラック。“わたしはここにいる 死んではいない”の歌詞に象徴されるように、極秘で進められていた復活を高らかに宣言するような痛快なロックンロールだ。歌唱力も衰えていない。
02DIRTY BOYS
プロデューサーのトニー・ヴィスコンティが“キャバレーの音楽”と表現する、絡みつくようなダーティなバリトン・サックスの響きやファンキーなギターが印象的なスロー・ナンバー。アメリカ南部の貧困とロンドン郊外での暴動をダブらせたと思しき詞も深い。
03THE STARS (ARE OUT TONIGHT)
『ザ・ネクスト・デイ』からのリード2ndシングルは、ポップな感覚を持つざっくりとした8ビートのロックンロール。無数の星と数々のハリウッドスターをかけ、死が訪れてもこの世に残された作品は君のために輝くだろうと説く。
04LOVE IS LOST
ボウイ自身が80'sの香り漂うシンセを弾き、4ピースでどっしりとしたグルーヴを聴かせる一曲。動乱で家も愛する人も失った昔の貴族と思しき若き女性の生涯に思いを馳せて、終始シリアスな表情で歌う。終盤に向けて感情を昂らせる、ボウイの多重コーラスも聴きもの。
05WHERE ARE WE NOW?
何の前触れもなく突如10年ぶりの新曲として公開された1stシングル。老境にさしかかったボウイが、ベルリン時代の思い出やかの地の歴史を回想し、今いる場所をあらためて確認するような、慈愛に満ちたバラードのメッセージ・ソングだ。歌唱もやさしい。
06VALENTINE'S DAY
実在したとされるキリスト教殉教者を冠した、明るいミッド・ロック。アール・スリックの泣きのギターも決まっている。アルバム『ザ・ネクスト・デイ』からの4thシングルで、PVではギターを弾きながら歌う“ミュージシャン”ボウイの近影が観られると話題に。
07IF YOU CAN SEE ME
96年の名作『アースリング』を彷彿とさせるようなジャングル・ナンバーで、ドラマーは同アルバムでも叩いていたザッカリー・アルフォード。性急なビートとメタリックなギター、シアトリカルなヴォーカルとコーラスでドラマティックに展開。
08I'D RATHER BE HIGH
ゲイリー・レナードのギター・リフとボウイの多重コーラスが印象的なグルーヴ・ロック。亡命したロシアの作家、ウラジーミル・ナボコフの名前も登場し、歴史や文学に敬意を払いつつ、帰還兵のPTSDにも言及したといわれるメッセージ・ソングだ。
09BOSS OF ME
ギタリストのゲイリー・レナードとの共作曲。「ダーティ・ボーイズ」同様、スティーヴ・エルソンのバリトン・サックスが特徴的。派手やかさをプラスしつつ、トニー・レヴィンのベースと相まってどっしりと腰を落ち着けたグルーヴを作り出している。
10DANCING OUT IN SPACE
モータウン・ビートと軽快なシンセ、テン年代以降のサイケ・ロックのエッセンスあふれるギターが特徴的。曲は至極快楽的だが、歌詞は宇宙空間に浮かび何かの真理に触れるような、不穏で抽象的なもの。ベルギーの詩人ジョルジュ・ロダンバックの名も登場する。
11HOW DOES THE GRASS GROW?
95年に死去した作曲家ジェリー・ローダンのシャドウズ提供曲「アパッチ」(1960年)をサンプリング、コード進行も一部拝借したサイケデリック・ロック。自身が影響を受けた文化に敬意を表したアルバム・コンセプトにもふさわしい。
12(YOU WILL) SET THE WORLD ON FIRE
ピート・シーガーやデイヴ・ヴァン・ロンク、ジョン・F.ケネディ……ほか多数の60年代アメリカのヒーローが登場。すでにこの世を去った彼らの功績を讃え、そして自身もいつかはそこに名を連ねたい。そんな気迫さえ感じるヴォーカルが胸を打つロックンロールだ。
13YOU FEEL SO LONELY YOU COULD DIE
アルバム『ジギー・スターダスト』の「Five Years」を髣髴とさせるとファンの間でも話題の、哀愁漂うアコースティカルなミッド・バラード。どこかの荒廃した街を舞台に達観と諦念が渦巻く思いを詩的に描いている。コーラスが厚みを増す終盤が感動的だ。
14HEAT
アルバム『ザ・ネクスト・デイ』の本編を締めくくる一曲。三島由紀夫の『牝犬』や『孔雀』といった比喩も飛び出す、“愛”に思いを巡らせた厳かなバラードだ。物悲しいヴァイオリンや終始やさしく鳴らされるアコギの音色の余韻に身を任せたい。
15SO SHE
アルバム『ザ・ネクスト・デイ』デラックス盤のボーナス・トラック。本編最終曲「ヒート」とほぼ同じ楽器編成だが、ゲイリー・レナードのスライド風のギターがリラックス感を生んだ多幸感のある仕上がりに。孤独からの解放を歌った、2分半のポップ・ソングだ。
16PLAN
アルバム『ザ・ネクスト・デイ』デラックス盤のボーナス・トラック。ドラムのザッカリー・アルフォードとボウイ(ギター、パーカッション、シンセ)の二人のみで演奏したインスト・ナンバー。2分の小品だが、空間的な広がりを感じさせるイマジネイティヴな小技が効いている。
17I'LL TAKE YOU THERE
アルバム『ザ・ネクスト・デイ』デラックス盤ボーナス・トラック。「セット・ザ・ワールド・オン・ファイア」との関連も思わせるエネルギッシュなロックンロール。アメリカの体制に懐疑的な目を向ける、ボウイにしては直接的で辛らつな歌詞が印象的。
18GOD BLESS THE GIRL
世界中のファンが泣いて欲しがる、アルバム『ザ・ネクスト・デイ』日本盤限定ボーナス・トラック。16ビートで軽快に進むロックンロールで、タンバリンや跳ねるピアノ、厚みのある女性コーラスがドラマティックだ。神の御加護はあなたに、ボウイ自身に、そしてアメリカに。