ミニ・レビュー
ザ・スミスといえば、その一風変わった詞に大きな特徴があり、84年度のベスト・ソングライター・コンビに英国内で選ばれた程のものだ。その内容は、厳然とした階級社会への皮肉から家庭内暴力まで、日常性に求めており、古めのサウンドが逆に新鮮だ。
収録曲
01THE HEADMASTER RITUAL
教師の体罰を泣き出しそうな調子で歌い上げる美メロ・ナンバー。ジョニー・マーが弾くクリアでジャングリーなギター・リフは、後続バンドの作品でたびたび類似品に出くわすほどの鮮烈さ。渦巻くような曲調に目もくらむ。
02RUSHOLME RUFFIANS
エルヴィス・プレスリー「マリーは恋人」を下敷きとして拝借したロカビリー調のリズミカルな曲。軽快な曲調に反し、詞ではにぎやかな移動遊園地の片隅での悲観的な人間模様が、苦々しく厭世的な調子で描かれている。
03I WANT THE ONE I CAN'T HAVE
心と身体の関係を毒気を交えて歌い上げた文学的な歌詞。人間の誰もが抱える暴力性への警句にも思える内容だ。ジョニー・マーが弾くクリアな音色のギターで形作られた、スミスらしいサウンドがポップに展開されている。
04WHAT SHE SAID
「煙草を吸うのは早死にしたいから」と歌われる虚しげな曲。全編にフィーチャーされたパワフルなドラミングをはじめ、スミス作品にしては珍しくサウンドがハード。ハード・ロック調のギター・プレイも見せ場が満載。
05THAT JOKE ISN'T FUNNY ANYMORE
アコースティック・ギターのメロウな旋律がゆるいビートに絡みつき、幻想的で耽美なモリッシーのヴォーカルと相まってエレガントな雰囲気を醸し出す。美しいサウンドが、絶望を綴った哀しい詞世界をリアルに描く。
06HOW SOON IS NOW?
しなやかなビートと不穏なノイズ・ギターで始まる冒頭は、インパクト抜群。「今では希望のかけらもなくなった」と絶望感に満ちた心象風景を、美しくメランコリーなヴォーカルと歪んだギターの旋律で描き出す。
07NOWHERE FAST
次回作『ザ・クイーン・イズ・デッド』の予告編とも思える反英国王室ソング。王室に対する反感を“女王の前でズボンを下げる”という不敬な一節に集約。アップ・テンポで跳ねるような曲調は、リズム隊の飛躍的な成長の証といえる。
08WELL I WONDER
少ない言葉数で語りかけるように、訴えかけるように歌う切実なラブ・ソング。簡素でリリカルな曲調は、終盤に雨が降り出す演出により美しさを際立たせている。ギター・ポップの理想的な姿が記録されている隠れた名曲だ。
09BARBARISM BEGINS AT HOME
家庭での児童虐待を題材にした問題作。シリアスすぎる歌詞に対し、サウンドは驚くほどファンキーで、ギターやベース(ソロあり)がシックばりのサウンドを鳴らしている。モリッシーの朗々としたフェイクも素晴らしい。
10MEAT IS MURDER
菜食主義者のモリッシーが肉を口にするすべての人間を非難した強烈な曲。家畜の悲痛な鳴き声、静けさの中に不穏さを湛えたアレンジが、「キル」ではなく「マーダー」と表現してみせた歌詞のメッセージ性を強めている。