ミニ・レビュー
マニックス初のチャート1位をヨーロッパ6ヵ国で記録した大ヒット新作。彼らならではのメロディックでメランコリックな歌世界が、ストリングスやキーボードを交えたスケールの大きなアレンジで展開される本作は、新たな高みに達した彼らのベスト作。
ガイドコメント
オアシスやヴァーヴも良いけど、やっぱりマニックスだよなという30代以上のUKロック好きはたくさんいる。以前と変わらぬ印象的な旋律を聴かせるこの5作目で、完全復活をもくろむ。
収録曲
01THE EVERLASTING
アルバム『ディス・イズ・マイ・トゥルース・テル・ミー・ユアーズ』のオープニング。シンプルなドラム、爪弾くようなギター、Vo.ジェームス・ディーン・ブラッドフィールドのハイトーン・ヴォイスのバランスが絶妙。後半のストリングスが切なさを醸し出す。
02IF YOU TOLERATE THIS YOUR CHILDREN WILL BE NEXT
バンド+ストリングスのシンプルなアレンジ。そこに、「次世代のためにしなければならないこと」という重いテーマをひたすら真摯に歌うことで、圧倒的な力強さが加えられた傑作。サビの「WILL BE NEXT」のリピートが頭から離れない。
03YOU STOLE THE SUN FROM MY HEART
打ち込み+アルペジオのシンプルで清涼感のあるアレンジが心地よい。後半、Aメロのフレーズを1オクターブ上げて歌うVo.ジェームス・ディーン・ブラッドフィールドのハイトーン・ヴォイスは、フレディ・マーキュリーを彷彿とさせる。
04READY FOR DROWNING
イントロの電子オルガンが切なさをかき立てるミディアム・ナンバー。ギター・サウンドは陰を潜め、電子音が主体のアレンジとなっている。「死の覚悟さえできてない俺たちはどこに行けば良いんだ」という苦悩が歌われている。
05TSUNAMI
シンセサイザーのフレーズのリピートがエキゾティックな雰囲気を醸し出し、電子音とストリングスの融合が爽快感のあるサウンドを聴かせる。「tsunami tsunami」の歌声は聴き始めには違和感を覚えるが、徐々に頭から離れなくなる中毒性あり。
06MY LITTLE EMPIRE
生音ギター&Vo.ジェームス・ディーン・ブラッドフィールドのめずらしく低音で聴かせるヴォーカルがクールなナンバー。自身の中に潜む誰も知ることのない人格を淡々と歌う。ラストの「Happy Being Sad」のリピートが切ない。
07I'M NOT WORKING
既存のコード進行を破壊したかのような展開と中近東を連想させる弦が、曲全体にエキゾティックな雰囲気を与える。「俺には手を打つすべもない」という内容が、気だるいサウンドにこれ以上ないほどマッチしている。
08YOU'RE TENDER AND YOU'RE TIRED
サビの大きな展開や電子ピアノ&伸びやかなヴォーカルが聴きどころのミディアム・ナンバー。ロック・バンドでありながら、ギター・サウンドがないことの不自然さをまったく感じさせない、マニックスの懐の深さを感じる曲。
09BORN A GIRL
ギター&ヴォーカルのシンプルな弾き語りで、男として生まれた自身に対する怒りや情けなさ、女性に寄りかかりたくない気持ちを切実に歌う男性の共感を呼ぶナンバー。要所に登場するアコーディオンが哀愁を誘う。
10BE NATURAL
印象的なギター・フレーズと力強い言葉。マニックスの真骨頂ともいえるアンセム・ナンバー。メジャー・コードを使用しながら王道の進行パターンを微妙に外すことで、マニックス独特の美しさを生み出している。
11BLACK DOG ON MY SHOULDER
ボサ・ノヴァ風のアレンジに大きく展開するマニックスらしいメロディを乗せた、ユニークな聴かせ方をする軽快なナンバー。「喉はカラカラに渇き、目を開ける勇気もない」と、窮地に立たされた己の葛藤を歌っている。
12NOBODY LOVED YOU
イントロからメジャー・コード爆発の痛快なロック・ナンバー。Aメロの沈黙を破り、サビで大きく展開する流れは圧巻。自身ではどうすることもできない、愛する人への気持ちを歌う内容。力強さの中にも切なさを感じる。
13S.Y.M.M.
ギターの1ストロークを引きずりまわすかのような気だるいアレンジ。テンポはスローなロック・ナンバーだが、「大量殺人犯よ、どうやったら夜眠れるんだ?」といった、あまりにもストレートな内容は聴く者に衝撃を与える。
14SOCIALIST SERENADE
思わず体が動いてしまうような軽快なテンポに乗せ、シンセ&ギターが縦横無尽に駆け回る。ポップなサウンドに相反し、詞は「教育システムが一体何になる?」と、マニックス本来の反骨精神が全開となっている。
15BLACK HOLES FOR THE YOUNG
イントロのチープな電子オルガンがドアーズを彷彿とさせるナンバー。ロック・テイストは健在だが、随所に垣間見られるポップ寄りなアレンジが聴きどころ。歌詞は若者の心の闇を歌うシリアスな内容となっている。