ミニ・レビュー
アイドル的ルックス、若さとは裏腹にものすごくマニアックな音楽的ルーツを反映させた音に驚かされた。このデビュー盤では、それ以前のシングルでのダンス的アプローチから、シド・バレット的サイケ感覚までしなやかにまとめた充実作。今年の英新人ではトップ。
ガイドコメント
デザイン集団“スタイロルージュ”によるデザインに魅せられ“ジャケ買い”した人もいるであろう記念すべきデビュー作。全英チャート7位どまりだった本作だが、すでに只者じゃなさ感が漂っていた。
収録曲
01SHE'S SO HIGH
90年10月15日に発表され、全英48位を記録したデビュー曲。ノイジーなギター・サウンドを基調としたメロウな曲調に、ダンサブルなビートを融合。過去現在の流行から無邪気にイイとこ取りしたようなサウンドに微苦笑だ。
02THERE'S NO OTHER WAY
91年4月15日に発表された第2弾シングル曲で、全英8位を記録した出世曲。インディ・ダンスとシューゲイザーの間を行くようなサウンドは没個性かと思われるが、メロディやアレンジに、のちに大きく開花するセンスの源流がある。
03BANG
たったの15分で書かれたらしいグルーヴィなロック・ナンバー。91年7月29日に第3弾シングル曲として発表され、全英24位を記録するが、ブラー史上屈指の駄曲とする意見も多く、バンドもこの曲をもっとも嫌っている。
04I KNOW
ストーン・ローゼズ、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインなど、先達の名が脳裏に浮かんでは消える曲調のダンサブルなナンバー。サイケデリックなモヤで包まれたサウンドはさておき、グレアムの弾くギターには個性が光る。
05SLOW DOWN
音も歌詞もやけに真正面へと向かっているロック・ナンバー。演奏もアレンジもかなり雑なうえ、中盤では♪ア〜ア〜ア〜ウ〜ウ〜ウ〜と歌うのみ。しかし、これが妙なカタルシスを生んでみせるのだからロックとは奥深い。
06REPITITION
ギターのフィードバック・ノイズがゆっくりと這うように流れていくサイケデリックなナンバー。酩酊感たっぷりのサウンドと前向きな頑張れ系の歌詞とのギャップは、改めて聴き直してみると、これはこれで乙な味。
07BAD DAY
ベース・ラインを強調したスタイルでのギター・ロック。ときおりトリッキーなプレイを展開するギターが、なかなか魅力的。当初はこの曲が第2弾シングルになる予定だったようだが、しなくて正解だっただろう。
08SING
もの悲しく鳴り続ける、否、鳴り止まぬピアノが、楽曲にミニマル・ミュージック的な美しさを与えている無機質ナンバー。『トレインスポッティング』のサントラに収録されたのを機に再評価を集め、いまでは初期代表曲に。
09HIGH COOL
彼らが使用していたスタジオのエアコンに書かれてあった文句を借用した曲名。彼らのモッドな感性を感じさせるスタイリッシュなナンバーで、ジャジィなグルーヴも悪くない。ハイを付けるほどではないが、たしかにクール。
10COME TOGETHER
ビートルズ、プライマル・スクリームに同名異曲があり紛らわしいが、こちらはブラーのオリジナル。ノイジーなギターを強調したインディ・ダンス直系ナンバーで、ギター・リフには「タックスマン」の影がチラッ!?
11INERTIA
シューゲイザー・バンド勢の作品を思わせるスローなサイケデリック・ナンバー。寄せては返すギター・ノイズのさざ波と美メロは、繰り返し聴くうちに心地よさが増すばかり。この曲に、よくぞ“惰性”と名づけたり。
12MR.BRIGGS
デーモンが出会ったリヴァプール人をモデルに書き上げた曲。陰りあるメロディに加え、英国的日常を描いた歌詞も魅力的なので、習作レベルのアレンジをもう少し練りこめば、間違いなく裏名曲となったはず。惜しい。
13FOOL
ブラーがシーモアの名で活動していた頃に書かれた曲。ザ・スミスからの影響が色濃いギター・ポップ・ナンバーで、デーモンの歌いっぷりもどこかモリッシー風。ドタバタとやんちゃなドラミングなど、魅力の多い曲だ。
14BIRTHDAY
「誕生日なんて嫌いさ、みじめになるから」と歌う、後ろ向きでひとりぼっちの美メロ誕生日ソング。淡々と静かに歌われる曲調が2分45秒過ぎに激変。美しいギター・ノイズを1分間振りまいた後、そっと幕が下ろされる。
15WEAR ME DOWN
デビュー曲「シーズ・ソー・ハイ」と同系統のシューゲイザー×インディ・ダンスなギター・ロック。ただし、こちらのほうがサウンドにエッジがあるうえギターもノイジー。意外にファンも多いドリーミーな隠れ佳曲。