ミニ・レビュー
ジャケットで得をした前作と比べると今回の2ndは…。しかし、中身は、そのマイナス要因を軽くクリアーする良質なグラム・ロックであった。まるで70年代中期のデヴィッド・ボウイを再現するような。プラスティック濃度も高い懐古型趣味人の世界。
ガイドコメント
自らのルーツである英国伝統音楽を自己流再生産した傑作ポップ・アルバム。チャートは全英15位に終わったが、彼らの作品中で、この2ndがいちばん好きだというファンも多い。93年発表。
収録曲
01FOR TOMORROW
“20世紀少年”が毎日の生活に心身をすり減らす様が描かれた歌詞は、T.レックスではなく、キンクス「20世紀の人」の詞世界と地続き。シニカルでポップな作風にも、キンクス、XTCの後継者と呼ぶべき魅力が満載。
02ADVERT
あっぷあっぷしている主人公の精神状態を代弁するように、滑らかなメロディのすぐ横を、ハードなギター・リフが走り抜けていくポップ・ナンバー。サビの部分で声音が豹変するヴォーカルなど、モダンなアレンジが秀逸。
03COLIN ZEAL
ニューウェイヴ風味のギター・ポップ・ナンバーで、ファンクな要素も微かに備えている。しかしこの曲、ジュリアン・コープのバンド“ティアドロップ・エクスプローズ”のデビュー曲「スリーピング・ガス」にとても似ている。
04PRESSURE ON JULIAN
デーモン憧れのミュージシャン、ジュリアン・コープについて歌った曲。これを聴くと両者がいかに似た声質かがよくわかるだけでなく、音楽面での影響も明らかに。タイトなリズムとサイケな音像によるギター・ポップ。
05STAR SHAPED
無自覚な人間になり果てたと自覚する主人公が自問自答する、まばゆくアップ・テンポなポップ・ナンバー。オーボエとサックスで英国的な味つけを加えているのは、元ドリーム・アカデミーの才女ケイト・セント・ジョンだ。
06BLUE JEANS
はかなげで青臭いメロディに乗せてソフトな歌声が届けられる、ブラーのブルージーンズ・メモリー。毎日の暮らしに対するあきらめの気分をジーンズを履き替えない理由と重ねて描いた歌詞に、詩人デーモンのセンスが光る。
07CHEMICAL WORLD|INTERMISSION
米国での配給元に「米国ウケしそうな曲がない」と因縁をつけられ急遽作った、ネオ・サイケデリックなポップ・ソング。続く「インターミッション」は、曲調が急加速し最後にはギター・ノイズの嵐が吹き抜けるインスト曲。
08SUNDAY SUNDAY
一見、休日の風景が描かれている風な歌詞の向こうに、キンクスの系譜に名を連ねる彼ららしい皮肉が透けて見えるポップ・ソング。散歩をしているようなリズムの曲だが、途中で足早になったり牛歩になったりと忙しない。
09OILY WATER
デモの段階からすでに完成度の高さが評価されていた曲。音色を強調した黒っぽいリズムが印象的で、特に強打され続けるドラムは、終盤でノイジーなギターと一緒になってサイケデリックな音空間を演出するなど大活躍。
10MISS AMERICA
歌詞に直接的な表現はないが、彼らのアメリカ進出失敗が何かしら関係していそうな哀しげな雰囲気のスロー・ナンバー。この曲、ドラムのデイヴは不参加。彼の担当楽器欄には、パブの名前がクレジットされていて笑える。
11VILLA ROSIE
キンクスのカヴァーと言われれば信じてしまいそうなほどレイ・デイヴィスっぽい作風。変則的かつメリハリのあるメロディに乗せ、労働者たちのぼやきとささやかな楽しみが描かれた歌詞を生き生きと歌い上げている。
12COPING
パンク・バンドの曲をモダン・ポップなアレンジで演奏したような、浅くも深くも聴ける好曲。センス抜群なアレンジの曲調が、彼らの魅力はメロディのみにあらずと教えてくれる。自暴自棄な歌詞とのミスマッチぶりも魅力。
13TURN IT UP
彼らのマネージャーの強い主張で、バンドの意に反し『モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ』に収録。明朗で開放的なメロディが魅力的なギター・ポップながら、なぜかメンバーは一様に「収録しなきゃ良かった」と酷評。
14RESIGNED|COMMERCIAL BREAK
ゆっくりと染みわたる甘いメロディが、いつ聴いても耳をとろけさせてくれるメロウな隠れ名曲。素直になれない歌詞もステキなラブ・ソングだ。続けて流れる「コマーシャル・ブレイク」は、やんちゃし放題のインスト曲。
15YOUNG AND LOVELY
1960年代ロックの残り香が芳しく匂い立っているギター・ポップの隠れた名曲。もう若くはない人ほど琴線を刺激されるに違いない甘いメロディ。この先どれだけ時間を経ようとも、この曲が放つ青臭い魅力は色褪せないだろう。
16POPSCENE
音楽業界を揶揄した歌詞のみならず、サウンドまでも攻撃的な人気曲。この曲で全米進出を目論むも、世界規模でのグランジ・ブームの前に惨敗。数年後、この曲と同系統の「ソング2」がアメリカで人気を得たのは皮肉だ。