ミニ・レビュー
不思議なバンドの登場だ。セッションの経験が豊富なメンバーが集まって結成したバンドということだが、ジャンル的に言えば何でもあり。しかも、散漫な印象はなく、どの曲もポップにほど良く仕上がっている。新しいものに目が無い人はとびついてみれば。
ガイドコメント
全国のポップ・ミュージック中毒者がいまも愛してやまない彼らのデビュー作には、先頃新作を発表したジェイソン・フォークナーもメンバーとして参加。彼らのポップ音楽への偏執的なまでの愛に満ちた大傑作。ボーナス・トラックのライヴ曲も泣かせる。
収録曲
01THE MAN I USED TO BE
自ら「まさにこれがジェリーフィシュの誕生」と評す、初期における金字塔。ブルージィなメロディとアンディの泣きのヴォーカルにグっとくるバラードだが、荘厳な空気を湛えたアレンジには、すでにマニアぶりがしっかりとうかがえる。
02THAT IS WHY
シングルにもなったポップなミドル・チューン。彼らにしては無難な感も否めないが、マイナーからメジャーへのドラマティックなメロディ展開、ビートルズの匂いがプンプンするコーラスは、ファンをニンマリさせてくれる。
03THE KING IS HALF UNDRESSED
ロジャーいわく“毛穴から才能が滲み出る”ジェイソンが加わり、音の厚みがぐんと増した初期の快作。バックが重厚なほど映える甘美なギターはXTCのごとく、華麗なるクイーン風コーラスも炸裂。パワー・ポップの雄、本格始動の作。
04I WANNA STAY HOME
こんな穏やかに晴れた日は、カウチでゴロリ……。そんなインドア派にオススメしたい、至福のアコースティック・ナンバー。ジェイソンのギターはそよ風のように優しく、そして甘美なトランペットは小鳥のさえずりのようだ。
05SHE STILL LOVES HIM
ゴスペル調の厳粛なイントロに酔ったところで、不意に切ないメロディで切り出される、哀しい新妻の物語。そのシリアスな詞世界を崩さず、それでいてポップに仕上げた絶妙のトラック・メイクは、ポール・マッカートニーばりの仕事だ。
06ALL I WANT IS EVERYTHING
これぞ、超パワー・ポップ。一言で言えば激キャッチーなハード・ロックだが、アンディいわく「アズテック・カメラとチープ・トリックをくっつけた」とのこと。ほかにもロック・ファンをニンマリさせる仕掛けがてんこ盛り。
07NOW SHE KNOWS SHE'S WRONG
クイーンがアメリカのバンドだったら、こんな作品が生まれただろう。一聴して初期クイーンのヒット曲「キラー・クイーン」を彷彿とさせる甘美なポップ・チューンだが、その明朗なサウンドは、まさにアメリカならではの質感だ。
08BED SPRING KISS
妖艶なメロディに乗せて描かれる、ある殺人者の物語。アダルトなムードがムンムン立ち込める、メランコリックなボサ・ノヴァ・ナンバーながら、しっかりポップに仕上げている。彼ら自身、初期の金字塔と自賛している秀作だ。
09BABY'S COMING BACK
ワム!・ミーツ・プレスリーといった趣の、まさにポップ・ファンにどストライクなカントリー・ポップ。アンディいわく「10分36秒で書いた」(!)そうだが、そのカラフルなアレンジには相当な時間をかけたはず。
10CALLING SARAH
彼女への想いをストレートに綴った愛らしいラヴ・ソング。ザ・ウォーターボーイズの「ア・ガール・コールド・ジョニー」にインスパイアされたそうだが、随所にクイーン的なアレンジを加え、麗しいポップ・チューンに仕上げている。
11NO MATTER WHAT
90年、ロサンゼルスはロキシーでのライヴ・テイク。バッド・フィンガーの世界的ヒット「恋の嵐」のカヴァー、というよりコピー。違いといえばハード・ロックなアンディのヴォーカルか。とにかく楽しいパワー・ポップに仕上がっている。
12LET 'EM IN THAT IS WHY
91年、ロスのボガーツでのライヴ。ポール・マッカートニー(ウイングス)の名曲とオリジナル曲のメドレー。単調ながらポップ・センスあふれる秀逸のメロディ・ラインを特徴とする両曲だけに、まるで一つの作品のように自然な流れを展開。
13THE KING IS HALF UNDRESSED
90年、ロサンゼルスはロキシーでのライヴ・テイク。楽曲の持つまさに“パワー・ポップ”な迫力に加え、音源以上の疾走感に、彼らの心意気がびしびしと伝わる。短期間でこれだけのライヴ・バンドに成長したのは本当に奇跡といえよう。
14JET
91年、ハード・ロック・カフェでのライヴ。ウイングスの名曲を、原曲をしのぐ迫力でカヴァー。ポールへの愛敬が炸裂するアンディのヴォーカルはフレディ・マーキュリーのごとくハイテンション。まさにハード・ロックなテイクだ。
15NOW SHE KNOWS SHE'S WRONG
91年、ロサンゼルスのボガーツでのライヴ。オリジナルに忠実な高度な演奏を披露。スタジオに籠もって制作に励む“音の虫”のみならず、れっきとしたライヴ・バンドであったことを再認識させる。ライヴ然とした空気感もたっぷりの好テイク。
16BABY'S COMING BACK
オランダでのアコースティック・ライヴ。シンプルなサウンドで歌うカントリー・ポップは、なんとも朗らか。しかし、ティムはこの時「ヨーロッパの憂鬱」なるツアー病に苦しんでいたという。顔で笑って心で泣いての、根性テイクだ。