ガイドコメント
2000年、ジョン・レノン・イヤーを記念して、ファースト・ソロ・アルバムをリミックス・ヴァージョンでリリースする。シンプルなサウンドで綴られた曲が素晴らしい。
収録曲
01MOTHER
ジョンは幼い頃に両親と離別している。その心の痛みを、彼はこの作品にぶちまけた。淡々としたバラードも、終盤は「母さん行かないで、父さん戻ってきて」という壮絶な絶叫と化し、聴く者の胸を締めつける。当時、ジョンは叫ぶことで過去のトラウマを癒す「プライマル療法」を受けており、その影響が顕著なナンバーである。
02HOLD ON
孤立無援(と当時の二人は感じていたはず)のジョンとヨーコを励ますための曲。ギター、ベース、ドラムスだけの最小編成による簡潔な演奏をバックに歌われる俳句的な小品。東洋的なメロディとジョンの優しげな歌声が妙に新鮮に響く。
03I FOUND OUT
活動家や宗教や麻薬を痛烈な言葉で「役に立たない」と批判し、「俺はそれに気づいた」と告白する曲。贅肉を削ぎ落としたミニマムなバンド・サウンドは後年のパンク・ロックばり。世界最強のリズム・ギタリストだったジョンのプレイが炸裂する。
04WORKING CLASS HERO
ギター1本を友に、英国の階級制度を痛烈に批判していく、なんとも荒涼としたフォーク・ソング。その政治色が濃厚な作風は、ジョンに多大な影響を与えたボブ・ディランを彷彿とさせる。抑揚のないメロディをなぞる低いヴォーカルは、ケンカでいえば“ドス”をきかせた感じで、淡々としたなかにも凄みがあるナンバーだ。
05ISOLATION
人間が生きていく限り、逃れることのできない“孤独”を切々と綴るバラード。ジョンのアンニュイなピアノが情緒の不安定さを絶妙に演出。他にドラム(リンゴ・スター)とベース(クラウス・フォアマン)を加えただけのシンプルなサウンドであるが、ずっしりと心に響くのは、魂の叫びともいえるジョンの歌唱によるものだ。
06REMEMBER
スリー・リズムにフィル・スペクターのピアノを加えたシンプルなサウンド。「子供の頃を思い出せ」とジョンは歌う。ここでの歌と演奏は巧みに抑制されているが、最後は“ガイ・フォークス・デイ”を象徴するような爆発音によって唐突にカットアウト。
07LOVE
1970年のアルバム『ジョンの魂』に収録、ジョン・レノンが生み出したバラード名曲。“愛”という大きなテーマを自らのヨーコへの想いと重ねあわせてシンプルに歌われる。途中のオリエンタル調のメロディも印象的。
08WELL WELL WELL
ジョン、リンゴ、クラウス・フォアマンによるギター・トリオのロックンロール。ヨーコと過ごした英国での日々について歌っている。ヴォーカルとギターの大袈裟なユニゾンや過剰なまでの絶叫など、明らかに「やり過ぎ」のユーモラスな表現が楽しい。
09LOOK AT ME
インド滞在中の68年2〜4月に作られた曲。当地での瞑想仲間だったドノヴァン直伝のフィンガー・ピッキング奏法による生ギターの弾き語りで歌われるこの静謐なラブ・ソングは、同様にインドで生まれた名曲「ジュリア」の姉妹作のようだ。
10GOD
まったりとリフレインするピアノの旋律に乗せて、ジョンはあらゆるものを否定していく。神、聖書、エルヴィス、ディラン、しまいにはビートルズまで。そして「ヨーコと僕だけ。それが現実。夢は終わったんだ」と。“ビートルズ”という枠から解放されたジョンはヨーコとともに、“世界との対話”を生涯果敢に試みることになる。
11MY MUMMY'S DEAD
カセット・テープに録音されたデモ・トラック。ずっとジョンのトラウマだったはずの実母ジュリアの突然の死について、ジョンは歌っている。彼の半生を描いた物語を締め括るためには最良の1曲。カセット音源ならではの劣悪な音質が逆に効果的。
12POWER TO THE PEOPLE
人権、社会平和のメッセージが込められたジョン・レノン1971年の名曲。集団の足踏みの音をイントロに、シンプルなビートとヴォーカルに、サックスや45人の女性シンガーを加えた、エネルギーに満ち満ちたサウンドを聴かせる。
13DO THE OZ
廃刊寸前のアングラ雑誌「オズ」を支援するために録音されたジョンとヨーコの共作曲。R&B調のファンキーなサウンドに馬乗りになって、ジョンはやや即興的に歌い、ヨーコはいつもの奇声を発している。シングル「ゴッド・セイヴ・アス」のB面に収録。