ガイドコメント
オリジナル・ライナーを使用したり、内袋をミニチュア仕様で再現したり、オリジナル・アナログ盤を限りなく再現した、ザ・ジャムのデジタル・リマスター紙ジャケット・シリーズ全6枚。
収録曲
01HAPPY TOGETHER
ほのかな陰りを湛えたナンバーで、デビュー以来のファンも総じて満足しそうなビートの力強さが魅力。ウェラー自身、穴埋め用に書いたと回顧する曲だが、急かされると品質が向上する“ウェラーの法則”はここでも発動。
02GHOSTS
以降の作品でも見られるウェラー自身を鼓舞するような歌詞の楽曲。トランペットを配してはいるが、歌詞の内省的なムードに合わせて音色は穏やか。簡素な曲調ゆえ、ウェラーのソウルフルな歌唱の魅力も引き立っている。
03PRECIOUS
より黒っぽさを増したサウンドに、リアルタイムで聴いた人はさぞ驚いたであろうファンク・ナンバー。外部ミュージシャンを交えてのクールなサウンドは、ウェラーがジャム解散後に始めるスタイル・カウンシルそのもの。
04JUST WHO IS THE 5 O'CLOCK HERO
低所得ゆえの倹約を“生存のための終わりなき戦い”と表現する労働者階級賛歌。キャッチーなメロディとスウィングするリズムは、不満はあれど前向きな詞世界と合致。キンクスの作品世界に通じる人間味あふれる佳曲だ。
05TRANS-GLOBAL EXPRESS
雇用主を糾弾する歌詞に、ウェラーのマルクス主義への傾倒がうかがえるリズミカルなナンバー。ラップ風歌唱の合間に発せられる、パパパーッ、オイッ、ウラッ、ウーリャッなどの擬音シャウトが、意味なく多彩で笑える。
06RUNNING ON THE SPOT
まだ20代前半のウェラーが、周りに流されるな、知性こそ武器にと、早くも次世代の若者に向け呼びかけていて驚かされる歌詞。♪パパパーとハモる柔和なコーラスが、疾走感ある曲調に合致したポップなモッズ・ナンバー。
07CIRCUS
ブルース・フォクストン作のインスト・ナンバー。尖ったファンク・サウンドが紡ぐもっさりとしたメロディには、ウェラーのオシャレな世界では生み出し得ない種類のコクがあり新鮮。寺内タケシの世界に通じる味わいだ。
08THE PLANNER'S DREAM GOES WRONG
黒人音楽への憧憬がカリプソへのアプローチにまで発展。スティール・ドラムまで起用した本格的なサウンドが鳴っているのだが、カリプソを演じる上で必要とされるユーモアが、いかんせんウェラーには不足気味か。
09CARNATION
同じ花を題材にした「イングリッシュ・ローズ」に通じる美しさと儚さをあわせ持ったバラード・ナンバー。陰りのある曲調を支えるサウンドには、実験的な要素も多分にあり、二重三重の観点から楽しめる。
10TOWN CALLED MALICE
ステップやハンド・クラップを誘引する、ダンサブルなモータウン調ナンバー。のちのスタイル・カウンシル作品で多用される、政治的歌詞をポップな曲調で歌う手法を採り入れたこの名曲には、それこそ悪意にも似た皮肉がたっぷりだ。
11THE GIFT
プロデューサーのピーター・ウィルソンが弾くハモンド・オルガンも加わってのモッド・ナンバー。ハンド・クラップ入りの臨場感ある録音で、60年代当時のクラブの雰囲気を再現。バンド最終作を原点回帰で締めくくった。