ガイドコメント
大地の温かさ、宇宙の大きさ、人間のはかなさ……といった壮大なテーマを設定したインパクトのある1枚。オーケストラを導入した新サウンドで、彼女のまた新たな一面をアピールしている。
収録曲
01HUNTER
マーチング風の勇壮なドラミングと木管楽器の逆回転的サウンドが唸るような低音部とマッチして、ヘヴィなオーケストレーションを展開していく。アルバムの冒頭にふさわしく、始まりの予感がする、スケールの大きな一曲。
02JOGA
ビョーク自身の親友からタイトルを取った曲。低音弦のストリングスが古典的な印象を提示したのち、高音弦が空間の奥行きを作り、インダストリアルなビートが曲の顔立ちを徐々に明らかにしていく。緊張したビートと弦の調和が美しい。
03UNRAVEL
現代的なビートを中心としたオーケストレーションを整然と配置したナンバー。曲の配色の素晴らしさはマドンナやFrou Frouとの仕事で高い評価を得ているエレクトロニック・エンジニアGuy Sigworthの職人芸といえるだろう。
04BACHELORETTE
ビョークが「イゾベル」の続編と位置づけるこの曲は、確かにその印象を受け継ぎながらも寂寥感や陰を感じさせる色合いを持ち、一つの叙事詩に場面転換が起きたことを知らせている。
05ALL NEON LIKE
囁きのようなその歌声は、まるで胎児に話しかける母親のよう。心音のようなミニマル・ビートと神秘的なシンセサイザーの音色がまるで胎内に戻る錯覚を起こさせるかのような包容力を持った1曲。
065 YEARS
ノイジィなビートとミニマルなエレクトロ・リフの交錯に、ストリングスと歌唱が巧妙な強弱を付けていく。そしてラストはあまりにも唐突に終わる。ラスト・シーンのないロード・ムービーのような1曲。
07IMMATURE
ブリープ・テクノを少しだけ後退させ、メロディアスなダンス・ミュージックに昇華させたポップなナンバー。3分強という短めの曲だが、決して淡白な印象は与えないのはさすが。
08ALARM CALL
“ピッピー”というコーラスと時おり響くアラームというよりは波形を描くような電子音が、シンプルながらも個性的な世界観を演出しているナンバー。それもビョーク独特の歌い回しがあるからこそ成立するものだろう。
09PLUTO
性急なエレクトロニック・ビートは四つ打ちのキックとあいまって切迫していく。その緊張が高まるにつれて、ビョークの咆哮も激しさを増していく。その鬼気迫る野生的なパワーには不安すらおぼえるほどだ。
10ALL IS FULL OF LOVE
ミドル・テンポで厳かに始まり、終わっていく楽曲のバック・トラックにはビョーク・ポップスの美意識のすべてが注ぎ込まれているようだ。“すべては愛で満ちあふれている”、そんな啓示にも似た歌声もただひたすらに美しい。