ガイドコメント
ブッチ・ヴィグ・プロデュースの9作目。キム・ゴードンのヴォーカル曲が大幅に増えている。スタジオ・ライヴに近い状態でレコーディングされ、前2作よりずっとストレートでアグレッシヴに。
収録曲
01WINNER'S BLUES
オムニバス盤『DGC Rarities』用セッションから派生した、サーストン単独での弾き語りアコースティック・フォーク・ブルース。“人生は勝つときもあれば負けるときもある”と、鼻にかかった声でマイペースに歌唱。
02BULL IN THE HEATHER
女性が男性に“〜〜したいと言って”と哀願するセクシャルな内容の歌詞だが、キムがクールに歌うとむしろ強要のようにも思えてくる。淡々とした曲調に、サーストンのギターが冷ややかなハーモニーを付け加えている。
03STARFIELD ROAD
バンド初期の作風を思わせるノイズ度高めのナンバー。爆発音や光線を模したようなサウンドがスピーカー内を飛び交うさまは、さながら宇宙戦争のようでもあり楽しい。サーストンの狂気をはらんだような歌唱も印象的だ。
04SKINK
カール・ハイアセンの小説に登場するキャラの名を冠したキム歌唱のクール・ナンバー。興趣に富んだギター・フレーズの雰囲気に“それ風”な箇所があることから、仮タイトルでは「ピート・タウンゼンド」とされていた。
05SCREAMING SKULL
彼らと縁あるレーベル“SST”や、同じインディ・バンドのハスカー・ドゥ、レモンヘッズ、スーパーチャンクらの名が歌いこまれた歌詞が印象的。黙々と反復されるざっくりとしたバンド・サウンドに、皮肉めいた空気が内包したナンバー。
06SELF-OBSESSED AND SEXXEE
当時大ブームだったグランジ・ロック的アプローチを展開した、ソニックスらしからぬサウンド、と思えるのも序盤部だけ。先を進むにつれフリー・インプロヴァイズドなノイズ絵巻が広がりを見せる。
07BONE
幼児への性的虐待をテーマにした先駆的小説『ろくでなしボーン』(ドロシー・アリスン著)にインスパイアされた切実なナンバー。きしみを上げるトリプル・ギター・サウンドは、心身をむしばまれ続ける幼児の叫びそのもの。
08ANDROGYNOUS MIND
両性具有をテーマに採り上げた反復的リズムのナンバーは、歌詞に“神はゲイ”なる刺激的な言い回しも登場。各パートが異なる規則性に沿って反復プレイを展開する混沌の渦中で、サーストンが激しいシャウトを交え歌う。
09QUEST FOR THE CUP
この時期の彼らが意欲的に試みていた“反復性”を強調した、変則的にリズミカルなナンバー。どうやらキムは、レッド・ツェッペリン「胸いっぱいの愛を」のフレーズを意図的に真似ているようだ。
10WAIST
ギターもドラムも心持ち速足気味に演奏されるスピーディなナンバー。楽曲の速度は維持しながら、微妙な緩急を付けてみせる巧みな構成力。性急サウンドのきしみが、“無駄にするな”と諭す歌詞のメッセージに切実さを加味している。
11DOCTOR'S ORDERS
子供から見た母親の立ち振る舞いを描いた意味ありげな雰囲気のナンバー。キムの重ねられたヴォーカルが醸し出す不気味な効果を、消え入りそうでなかなか消えない終盤のインスト・パートがしっかりと引き継いでいる。
12TOKYO EYE
親日家の彼らによる日本をテーマにしたナンバー。大阪(osaka)ではなく関西(kansai)と表現した歌詞に、彼らの日本を解する心の深度が見える。奇妙なシンバルや痙攣ギターなど前衛的なサウンドが盛りだくさん。
13IN THE MIND OF THE BOURGEOIS READER
引きつれたギター・ノイズと、いつになく音が大きいベースをフィーチャーしたこのナンバーは、どことなく「バットマン」を思わせる曲調。反抗的主張が述べられた歌詞は、さながらパンク版“青年の主張”であろうか。
14SWEET SHINE
いつもはドライなキムの歌声から感じ取れる感情の揺れが新鮮なナンバー。フリートウッド・マックを思わせるポップな曲調から、仮タイトルは「リンジー」。曲終了後、「いらっしゃいませ。満タンですか?」と日本語が。