ガイドコメント
『ヒューマン・タッチ』と同時発売された11枚目の92年作品。こちらは『ヒューマン〜』の完成前に急遽制作された逸話をもつ作品で、名曲「イフ・アイ・シュッド・フォール・ビハインド」収録。
収録曲
01BETTER DAYS
「良き日々が近づいてきた」と歌われるスプリングスティーン流ゴスペル・ソング。クワイア調コーラスを従えて、ネガティヴな状態からの脱却を高らかに宣言している。歌いたいから歌う、というポジティヴな感情の爆発がここにはあり、一種の原点回帰でもある。
02LUCKY TOWN
憂鬱な気分を吹き飛ばすための呪文のような曲。ブルージィなリード・ギターから始まる曲は決して陽気なものではないが、「ラッキー・タウン」という呪文を繰り返すことで徐々に気分は盛り上がり、最後のヴァースではポジティヴな“新築”宣言へと変化していく。
03LOCAL HERO
マウスハープで幕を開けるカントリー・ロック調の曲。地元ニュージャージーの“ローカル・ヒーロー”だった自身の影を織り込んだ歌詞が秀逸。「ドーベルマンとブルース・リーの間」というポジションがいかにも彼らしい。自らの原点を再確認した曲のひとつ。
04IF I SHOULD FALL BEHIND
瑞々しいアコースティック・サウンドをバックに「何があっても一緒に歩いていこう」と歌われるラブ・バラード。主人公は少年と少女のカップルのように見えるが、実は大人のカップル。無知ゆえの無垢ではなく、苛酷な世界を経験しているが故のイノセンスが美しい。
05LEAP OF FAITH
「信仰の跳躍」について歌ったスプリングスティーン流セイクレッド・ソング。「信じて跳ぶ」という積極的な姿勢が当時の彼には必要だったのだろう。性交を宗教的な儀式のように描いた歌詞も楽しい。「お前の愛の中で俺は生まれ変わる」という一節が象徴的。
06THE BIG MUDDY
ピート・デクスターの小説『パリス・トラウト』(1988年)に触発されたオリジナル・ブルース。人間なら誰もが最後は「腰まで泥まみれ」になってしまう、という歌詞はネガティヴを超えてポジティヴにさえ感じられる。ドブロやスライド・ギターの音色が効果的に響く。
07LIVING PROOF
息子が生まれた悦びを歌った曲。シンプルなロック・サウンドをバックに、心から歌いたい曲を歌う悦びもここにはある。歓びにあふれた歌詞も素晴らしいが、とりわけ「今夜は親子3人で横になろう/幸福な盗賊の一団のように」という一節がいかにも彼らしい。
08BOOK OF DREAMS
聖なる儀式のように美しく描かれた結婚式の歌。過不足のない簡潔なサウンドをバックに、人生で最も幸福な日を迎えた彼の悦びが切々と訴えるように歌われる。「僕の夢の本の主人公になってくれないか」という一節も含めて、まさに夢のように美しいバラード。
09SOULS OF THE DEPARTED
イラク戦争でのエピソードや子供が校庭で射殺された事件を題材にした曲。マウスハープやスライド・ギターが悲鳴のように鳴り響く不穏なサウンドをバックに、「死者の魂に捧げられた祈り」が歌われる。米国社会への辛辣な批判も含む強烈なメッセージ・ソング。
10MY BEAUTIFUL REWARD
アコギの美しい響きをバックに淡々と歌われるカントリー調のバラード。「美しい報酬を探して」歩き続けてきた男が幾度もの辛い経験をくぐり抜けて、今夜は「灰色の野原の上」を飛んでいる。特に良いわけでもないが、決して悪い状態ではない、ということだろう。