ガイドコメント
スティーヴ・アルビニをプロデューサーに迎え、名盤『ネヴァーマインド』の後に発表された93年リリースの2ndアルバム。前作と比較にならないほどの、ザラザラした質感をもったバンドのオリジナル・ラスト・アルバム。
収録曲
01SERVE THE SERVANTS
タイトでストレートなロック・サウンドに乗って聴こえてくる、「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」への皮肉めいた言及が印象的。両親の離婚、バンドの成功など、歌詞でカートは内面を吐露する。自伝的要素の強い作品だ。
02SCENTLESS APPRENTICE
まるでレッド・ツェッペリンに化けたかのような超重量級バンド・サウンドが展開されるグルーヴィ・ナンバー。歌詞の言いまわしには、パトリック・ジュースキントの小説『香水-ある人殺しの物語』(85年)の影響がみられる。
03HEART-SHAPED BOX
ピクシーズの“溜めて爆発”パターンを、よりルーズに演じたような激情ナンバー。スティーヴ・アルビニの体制下で録音されたものの、バンド側の要望でスコット・リットの手で再ミックス。歌詞にはフェミニズム的視点がみられる。
04RAPE ME
「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」を自ら茶化したようなメロディが聴けるナンバーで、歌詞でも肥大した偶像イメージに自虐的な言及がみられる。良識派の抗議により、アメリカ再発盤の裏ジャケでは「Waif Me」と表記された。
05FRANCES FARMER WILL HAVE HER REVENGE ON SEATTLE
地元シアトル出身の女優、フランシス・ファーマーの名前を冠したナンバー。名声に弄ばれた彼女の人生に、自らの境遇を重ねるカート。感情的にほとばしるギター・リフも印象的だ。ちなみにカートの愛娘の名もフランシス。
06DUMB
意識を内面へと向けた内省的な歌詞が多い『イン・ユーテロ』にあって、サウンドもそのカラーなナンバー。カートの情緒豊かな歌とギターを、ケラ・シャリーの弾くチェロの音色がより繊細なムードにする。
07VERY APE
クリア&ノイジィなギター・フレーズが交互に鳴り合う、約2分間のドライヴィング・ナンバー。ギターの音色に、そこはかとなく漂うエキゾティックな雰囲気がいい。プロディジーが「ヴードゥー・ピープル」でこの曲のリフを引用している。
08MILK IT
カートが“新しいニルヴァーナ”と形容したこのナンバーには、バンドがいずれ辿り着いたやもしれぬフリー・フォーム・サウンドの一端が表出している。支離滅裂なバンド・サウンドがアグレッシヴに暴れまわる、刺激的な1曲だ。
09PENNYROYAL TEA
内面に溜め込んでいた感情を爆発させたようなカート・コバーンのヴォーカルが放つ迫力には圧倒。轟音が鳴り響くサウンドも印象的。ドラマティックな曲展開と、耳に残るメロディが魅力的なロックンロール・チューン。
10RADIO FRIENDLY UNIT SHIFTER
ニルヴァーナのアイロニカルな資質が前面に出た秀逸なナンバー。フレンドリーと銘打ちながら、サウンドはラジオに非友好的なノイズの嵐。カートの歌も、ラジオじゃ聴き取りづらかろう不明瞭さだ。デイヴがドラムで暴れまくる!
11TOURETTE'S
発症すると汚い言葉を吐くようになるとされるトレット症候群を、不謹慎にもモチーフにしたナンバー。その症状を真似たつもりか、スラッシュ・サウンドに乗せ下品な単語を連呼している。PTAなら“子供に聴かせたくない曲”に選びそう。
12ALL APOLOGIES|GALLONS OF RUBBING ALCOHOL FLOW THROUGH THE STRIP
マントラのように渦巻くギター・リフが印象的なナンバー。自らを“かけがえのない存在”と皮肉った歌詞が、カートの死により重みを増した。24分経過後、隠しインプロヴィゼーション・トラック「ギャロンズ〜」が登場する。