ガイドコメント
レディオヘッド作品で知られるナイジェル・ゴドリッチをプロデュースに迎え、前2作の路線とは趣きを異にするフォーキーなアルバム、98年作品。随所にベックらしい遊びが聴ける味わい深い1枚。
収録曲
01COLD BRAINS
帰ってきたフォーク・シンガーBECKの第一声。若い頃のような突き上げる怒りを吐き出すのではなく、生楽器とごくシンプルなメロディが特徴的。けれど奇怪な電子音がやむことはない。凍てつく冬の朝に聴きたい1曲。
02NOBODY'S FAULT BUT MY OWN
世界に対して中指を突き立てていたあのBECKが、「ぼく以外の誰のせいでもない」とまで言うようになった記念すべき曲。それでもやはり彼が歌うのは、壮大な展開と美しいメロディを持った“擦り切れたブルース”だ。
03LAZY FLIES
重なり合うギター、小気味よく弾かれるカスタネット、そして一人で何役もこなす自在なコーラス。しかしそこに描かれるのは治安判事に梅毒患者にロボットなのがBECK流。それでいてアルバム『ミューテイションズ』中もっとも美しくハッピーな名曲。
04CANCELED CHECK
今の時代、カントリー・ミュージックにカテゴライズされるシンガー以外に、誰がここまで古き良きアメリカを再現することができるだろう。グラミー・アーティストであるBECKが歌う、気だるさがたゆたう南部の歌。
05WE LIVE AGAIN
美しいメロディに「ぼくらはもう一度生きる」と歌う、心の強さが耳に残る佳曲。しかしもちろんBECKならではのアイロニーに満ちたユーモアも見え隠れしている。ひどく疲れたような、かすれた声も印象的。
06TROPICALIA
サービス精神に満ちあふれたBECK流ボサ・ノヴァ・ポップ。これだけのハッピーさ満開の曲でありながら、歌っているのは爬虫類の炎だの愛のジョーズだの……。彼のたくましい想像力は不変だ。
07DEAD MELODIES
“死のメロディ”と銘打っておきながら、アルバム『ミューテイションズ』の中でも上位を争う美しい楽曲。「ルーザー」の頃ほどストレートではないぶん、難解さを増した彼の哲学が興味深い。語りかけるようなパーソナルなヴォーカルも魅力的だ。
08BOTTLE OF BLUES
とにかく爽快で痛快! いい感じに肩の力を抜いて自由に弾き、歌うBECKが清々しい。文字通り彼に“奇妙な安らぎ”をもたらしたのはブルースであり、それは彼にとって賛美歌ともいえるものなのかもしれない。
09O MARIA
わりと悪趣味好きなことで知られるBECKが、絶望と死を思わせるお得意の皮肉じみた詞で描きあげる。黒マントを羽織ってとうとうと歌うというアクトが有名な、やっぱり一筋縄ではいかない彼流のラブ・バラード。
10SING IT AGAIN
まるでゆったりとしたワルツのような、やさしい曲。そこで歌われるのはBECKらしい、とてもデリケートな愛だ。「そしてもう一度歌ってくれ」と語りかけるように、自らの声を重ね歌うメロウさが素晴らしい。
11STATIC
正規のオリジナル・アルバムでなく、パーソナルな心情と立場でリリースされたアコースティック・アルバム『ミューテイションズ』の中で、ひときわ異彩を放つ名曲。寂しげな歌詞もメロディも秀逸で、まるで映画のワンシーンのようだ。
12ELECTRIC MUSIC AND THE SUMMER PEOPLE
BECKが実はロサンゼルスというアメリカ西海岸で生まれ育ったのだと思い出させてくれる、底抜けに明るいビーチ・ミュージック。軽快なハンズ・クラップ、エヴァー・グリーンなコーラス、その隙間を網羅する電子音と、すべてが完璧なるポップ。
13DIAMOND BOLLOCKS
サプライズ好きのBECKだけに、『ミューテイションズ』を単なるアコースティック・アルバムで終わらせないため仕掛けた、大胆不敵な曲。フレンチ・ポップ+オルタナ魂+破天荒なノイズを掛け合わせた、とんでもない名曲。
14RUNNERS DIAL ZERO
どうもBECKの中での決まりごとなのか、アルバムの最後を飾る曲は暗く、おどろおどろしいものが多い。この曲も例に違わず、まるで悪夢のような物語を、陰気である種耽美的でもあるメロディに乗せている、アルバム『ミューテイションズ』のラスト・ナンバー。