[Disc 1]
01禁断のテレパシー
当時、おニャン子クラブで「うしろ髪ひかれ隊」として活躍していた工藤静香の鮮烈なソロ・デビュー曲。おニャン子の多くのナンバーを手がけている秋元康と後藤次利という鉄壁のコンビによる本作は、当時の女性アイドル・シンガーの王道をいくような、覚えやすいメロディと打ち込みの耳当りの良いサウンドで大ヒットを記録した。
02Again
87年12月2日にリリースされた2ndシングル。フジテレビ系『桃色学園都市宣言』エンディング・テーマだった。デビュー2枚目でありながら、はね気味のファンキーな難しいメロディ・ラインをいとも簡単に歌いこなす実力は、アイドルとは思えない底力を感じさせた。デビュー曲と同様に秋元康と後藤次利によるナンバー。
03抱いてくれたらいいのに
50〜60年代のアメリカン・ポップスを80年代サウンドで再現したような、壮大でゆったりとしたナンバー。色気のある歌詞をアイドルが堂々と歌っているのも、その時代の特徴だったのかもしれない。
04FU-JI-TSU
オーソドックスな歌声を聴かせていた時期の典型的なナンバー。この人にはやはり哀しげなメロディが似合うようで、ちょうど中森明菜の後継者的な存在として君臨していた時代の歌だ。
05MUGO・ん…色っぽい
80年代後半の風情が色濃く残るサウンドに、ポップで軽やかなメロディをのせた哀愁歌謡。こういったアイドルの歌う楽曲にこそ、その時代特有の雰囲気が映し出されていて、ある種の緊張感を持っている。
06恋一夜
ポップでありながらも和風の雰囲気を持った88年12月28日発売の6枚目のシングル。「箱根彫刻の森美術館」のCMソングとしてオンエアされていた。前作「MUGO・ん…色っぽい」のメジャーな雰囲気から一転して、日本人好みのマイナーなメロディと豊潤なサウンドで彼女の新しい一面を垣間見ることができる。
07嵐の素顔
工藤静香という存在が日本中に広く認識されるきっかけとなった、代表的なナンバー。現在ではすっかりおなじみとなった彼女の独特な声質が、この曲あたりから徐々に特徴づけられているのも印象的だ。
08黄砂に吹かれて
中島みゆきの提供した歌詞が後藤次利の楽曲と見事にはまった代表例だろう。哀愁あふれる路線はこれまでどおりの魅力のまま、さらにエネルギッシュでワイルドな雰囲気も加わり、極めて突出した印象が残る曲だ。
09くちびるから媚薬
アイドル歌謡としてはレゲエやスカなどのサウンドを巧みに取り入れた曲で、実験的な試みともいえる。哀愁のメロディはあくまでも王道を突っ走っていて、不思議と心地よく感じる。
10千流の雫
90年5月9日リリースの10枚目のシングルは、「黄砂に吹かれて」に続いて、太陽誘電「That's OW」のCMソング。作詞を工藤静香が愛絵理名義で担当、中島みゆきの影響を深く受けた繊細な歌詞を切実と歌っている。作曲はデビュー以来担当している後藤次利が担当、モダンでシックなイメージの曲に仕上げている。
11私について
90年9月21日にリリースされた11枚目のシングル。アコースティック・ギターをフィーチャーして、バックも打ち込みをほとんど使用していないアレンジで、彼女のフォーキーな面を垣間見ることができる。作曲は後藤次利、作詞は「黄砂に吹かれて」以来、約1年ぶりに中島みゆきが担当している。
12ぼやぼやできない
91年1月23日リリースの12枚目のシングル。モータウンっぽいリズムを持った8ビートのナンバーで、マイナーな曲調でありながらも、ちょっとユーモラスな雰囲気を持っている。作曲を担当している後藤次利が本来ベーシストであるため、毎回リズム面には趣向を凝らしてあるが、中でも本作は特にリズム面が充実している。
13メタモルフォーゼ
91年10月23日リリースの14枚目のシングル。工藤静香のシングルでは珍しいファンキーなアップ・テンポの16ビートのナンバーで、生音中心のサウンドが、グルーヴを生み出している。作曲担当の後藤次利らしくリズム面でもかなり趣向を凝らしてあり、ライヴで最も盛り上がりそうなナンバーに仕上がっている。
14めちゃくちゃに泣いてしまいたい
92年1月29日リリースの15枚目のシングル。デビュー以来の付き合いになる後藤次利作曲による壮大な雰囲気を持ったワルツで、切ない気持ちを描いた歌詞を感情を込めて切実と歌っている。どんなタイプの楽曲でもさらりと歌いこなしてしまう、工藤静香のヴォーカリストとしての力量を示したナンバーだ。
15声を聴かせて
92年8月21日発売の17枚目のシングル。ゴスペル・フィーリングの生ピアノでスタート、ゴスペル・クワイア参加の壮大なアメリカン・テイストのナンバー。南部のフィーリングたっぷりのオケをバックに余裕で歌いこなす様は、もはや貫禄すら感じられる。日本テレビ系『教師夏休み物語』挿入歌だった。
16慟哭
王道の8ビートを軸に、さまざまなサウンドが取り入れられているが、基本的なメロディの骨格は誰でも口ずさめそうなほどキャッチーだ。中島みゆきの表現する、男女の織りなす歌詞もますます深く哀しく響きわたる。
17あなたしかいないでしょ
ブルース・フィーリングたっぷりのギター・ソロから始まる93年10月6日リリースの20枚目のシングル。スローなロッカ・バラードで、南部フィーリングを持ったブラス・セクションやゴスペル風のコーラスなど、アメリカンな雰囲気にあふれたナンバーに仕上がっている。作曲は後藤次利、作詞は松井五郎が手がけている。
[Disc 2]
01Blue Rose
激しく耽美的なロック・サウンドが、これまでのアイドル路線からのステップ・アップを明らかに感じさせる。ロック・シンガーのように表現力も多彩となったからか、ワイルドでカッコイイお姉さん的な魅力も増している。
02Jaguar Line
ケミカル・ブラザーズのようなデジタル・ダンス・ロックのサウンドに挑戦した楽曲。従来のアイドル路線は卒業したうえで、あらゆるサウンドを実験的に取り入れており、本人の成長もうかがえる。
03Ice Rain
94年11月18日にリリースされた23枚目のシングル。「Blue Rose」で作曲を担当した都志見隆の本領が発揮されたピースフルなバラードで、工藤静香が愛絵理名義で書いている、痛い気持ちの伝わる歌詞と相まって、この時期を代表する名曲に仕上げている。ヴォーカリストとしても充実を感じさせる熱唱だ。
04優
母親が持つ偉大さと生きていく“強さ”に対し、“その強さを教えて”と願う詞と恋に迷う女性が“愛してください”と歌うヴォーカルは、とてもエモーショナルだ。映画『極道の妻たち〜危険な賭け』主題歌。
05激情
中島みゆきが作詞・作曲をともに担当しており、彼女がもっとも得意とする、日本的哀愁を歌詞とメロディに封じ込めたような曲に仕上がっている。オーソドックスに歌い上げるヴォーカルにも安定感が出てきたようだ。
06Blue Velvet
シャ乱Qのギタリスト・はたけ作曲による歌謡ロック。疾走感に富んだメロディと“彼に首ったけ”と歌った後の一瞬の静寂、その動と静の混沌が、心のブレーキを踏もうにも踏めない、走り出した感情を表わしているよう。
07雪・月・花
あなたがいない寂しさから私を自由にしてと訴える中島みゆきの詞、思いがひたすら募るばかりと言葉にならぬもの悲しさを切に表現するヴォーカル。恋する女性の心の内を露に表現する双方の技に舌を巻く。
08きらら
繊細なメロディと、グラスに付く水滴のごとく儚いものに宿る美しさと脆さを思わせるサウンドがマッチしたバラード。私ではなく“本当の私”を抱きしめて、という切なる思いを歌う感情的なヴォーカルが胸を打つ。
09Lotus〜生まれし花〜
前作より約3年ぶりのリリースとなるシングルは、壮大なスケールのバラード。16ビートの細かなリズム、シンプルで印象に残るポップなメロディ・ラインを気負うことなく歌いこなしている。打ち込みながら、ストリングスを活かしたドラマティックなアレンジが彼女の歌を一段と盛り上げている。
10心のチカラ
テレビ朝日系人気アニメ『ふたりはプリキュア』の映画『ふたりはプリキュアMAX HEART』の主題歌。ミディアム16ビートのブラック・ミュージック直系のナンバーを、それほど黒っぽさを感じさせずにさらりと歌いこなしている。また彼女自身も、映画本編で希望の園の女王役で声の出演をしている。
11Clavis-鍵-
日本テレビ系『DRAMA COMPLEX』挿入歌となった、通算39枚目のシングル。作詞・作曲は中島みゆき。中島が描きあげる強い女性像を、工藤静香らしい凛としたヴォーカルで歌い上げているナンバー。そのコンビネーションが絶妙。
12雨夜の月に
募る感情を“雨夜の月”や“今宵の空”へと託した、自身によるドラマティックな詞が光るミディアム・チューン。抑え気味に始まり、サビの高音部から徐々に切なさを漂わせるヴォーカルの存在感を再確認できる。
13曼珠沙華
山口百恵のカヴァー。初めは押さえ気味でサビに向けて少しずつ感情的に染めあげられていくヴォーカルの表情と、ピアノの音に絡むクールなボサ・ノヴァ調のアレンジとが相まって、不思議な余韻を残す。
14恋一夜 (2007 classical version)
厳粛なクラシカル・サウンドに包まれたセルフ・カヴァー曲。不幸ではない恋愛の最中でも、ふと女性が抱く不安な想いや緊張感を漂わせた巧みなヴォーカルが、恋愛経験を重ねた大人にこそ出せるリアルな恋模様を描き出している。
15めちゃくちゃに泣いてしまいたい (2007 jazz version)
ピアノから始まるジャズ・アレンジに大人の優雅さが漂うセルフ・カヴァー曲。歳月を重ねて円熟したヴォーカルは、艶を増して美しい。原曲を適度に崩した新たなジャンルへの挑戦が、ヴォーカリストとしての引き出しを増やした一曲。