ガイドコメント
ゲフィンからコンスタントに作品をリリースしている彼らの、インディーズ時代の楽曲をコンパイルしたベスト・アルバム。初期の代表曲を網羅した内容となっている。95年発表の再発盤。
収録曲
01ティーン・エイジ・ライオット
まどろむようなサウンドをバックにキムがつぶやくイントロ。それが1分22秒過ぎから音がささくれ始め、甘美でノイジーなギター・ロックへと変貌する。ざっくりとしたサウンドの中で、魅力的なメロディが浮き沈みしているナンバー。
02エリックス・トリップ
03キャンドル
シャープなバンド・サウンドで構成されたメロディアスなナンバー。明快なサビや薄く被せられたハーモニーなど、彼らの作品の中では聴きやすい部類に入ろうか。もちろん終盤には、ノイズの奔流が待ち構えているのだが。
04イントゥ・ザ・グルーヴィー
80年代風サウンドにノイズを加えた遊び心あふれる解釈で、マドンナ「イントゥ・ザ・グルーヴ」をカヴァー。マドンナの名前にちなんだ変名プロジェクト“チコーネ・ユース”誕生のきっかけとなったのがこのナンバーだ。
05G-フォース
06ビューティー・ライズ・イン・ジ・アイ
リー・ラナルドが弾きこなしている数種のギターによるドローン効果が、キムのスポークン・ワードの一語一語に対しても余韻を与えているナンバー。終盤、静謐な雰囲気の間隙を縫い、跳ねたドラム・サウンドが自己主張している。
07コットン・クラウン
キムとサーストンの“婦唱夫随”デュエットが初披露されたナンバー。ニューヨークをテーマにした歌詞を、ファズとドローンを塗り込めたダークなサウンドに乗せ歌唱。のちのニューヨーク三部作と聴き比べるのも一興。
08シャドウ・オブ・ア・ダウト
タイトルはアルフレッド・ヒッチコックの映画『疑惑の影』(1942年)の借用で、歌詞には同じヒッチコックの『見知らぬ乗客』(1951年)を引用。やや妄想めいた歌詞を、スリルとサスペンスに富んだサウンドで盛り上げている。
09エクスプレスウェイ・トゥ・ユア・スカル
スティーヴ・シェリーが初めて書いたナンバー。テレヴィジョンを思わせるロマンティックな曲調だが、途中にはリズム隊の激しいやり取りも。五感もとろける終盤のリヴァーブは、LP上では無限に鳴り続ける仕掛けだった。
10スターパワー
楽曲としての整合性を拒否するように、どんどんとエクスペリメンタルでまとまりのない方向へと展開されるさまがすばらしいヘタウマ・ナンバー。スウェル・マップスの曲から引用し、フリッパーズ・ギターには引用された。
11デス・ヴァリー'69
ゲストにリディア・ランチを迎えたナンバーで、彼女は作詞にも参加。アメリカ大衆文化の転機としての1969年を、狂気をはらんだジャンク・サウンドで描写。呪術めいた雰囲気が眠れる凶暴性に着火する、バンド屈指の名曲だ。
12ハロウィーン
足取り重いギター・アルペジオが不気味に鳴り続ける呪術的なナンバー。利かせたドスの下に熱っぽさを忍ばせたキムのつぶやき。これは何を祝祭しているのか? と不安に駆られるほど、彼女の声には圧倒的存在感がある。
13フラワー
仮タイトルが「Indian Beat」だったように、アメリカ先住民の儀式を思わせるリズム・パターン。女性に四文字言葉の常用をうながす挑発的な歌詞だが、その肝心の“四文字言葉”に音を被せた別ヴァージョンも存在。
14インヒューマン
非人間がテーマの歌詞だからだろうか、野太いベースがひと暴れするイントロを受け登場する主要パートは、やけにメカニカルな雰囲気。規則的なようで、どこか変則的な展開にソニックスの真骨頂がうかがえる。加速に次ぐ加速に興奮するナンバー。
15メイキング・ザ・ネイチャー・シーン
ポリリズミックなドラミングに合わせ放たれるキムのリズミカルなスポークン・ワード。そのテンポの小気味よさは、もはやアジテーション演説。そんなキムの傍らで、ビヨビヨビロビロと鳴り続けるギターが愛らしい。
16ブラザー・ジェイムス
83年の初演以来、ずっとライヴの定番レパートリーであり続けているキムの絶叫ナンバー。ポリリズミックなドラミングや、インダストリアルなギター・サウンドが一丸となり、急加速で迎える終末的なエンディングは鳥肌モノ。
17アイ・ドリームド・アイ・ドリーム
キムとリーの希少な組み合わせによるデュエット・ナンバー。ダークな音世界を貫くダブ感覚が、ソニック・ユースの“ユース”がレゲエに基づく命名だったことを思い出させる。クールなドラム・ブレイクが数箇所あり。