ミニ・レビュー
ギンズバークとバロウズへの追悼も含めた本作は、スタジオ・ライヴ風の作品。社会的なメッセージは当然個人と個人を結びつける、という当然の連鎖を祈るように歌うパティは再び頼もしい存在だ。
収録曲
01WAITING UNDERGROUND
反乱を待ち望む者の歌。ノイジーなギターが牽引するヘヴィなサウンドをバックに「我々がひとつになるその日まで/我々は待たねばならない」と歌われる。“ヒッピーの夢”というよりはむしろ“近未来SF”に近い世界観。アニメ世代なら共感できるかもしれない。
02WHIRL AWAY
ファンキーなギター・リフが先導する曲。ファンク調のビートに乗って「なぜ私たちはすべてを警戒しなければならないのか」と歌われる。「互いに監視し合うこと」が当然の前提になってしまっている現代社会に異議を申し立てた曲。これは人間の習性になりつつある。
031959
ワイルドなフォーク・ロック調の曲。「最高の時代であり/最悪の時代でもあった」という「1959年」について歌われ、中国によって侵略されたチベットにも言及している。バディ・ホリーらが飛行機事故で死んだのも「1959年」だった。間奏のアコギによるソロが秀逸。
04SPELL
97年4月に死去したアレン・ギンズバーグの詩「吠える(Hawl)」の脚注をオリヴァー・レイ作曲のインスト曲をバックに朗読。見事なポエトリー・リーディング。本篇ではなく脚注を選択するところがパティらしい。彼女が吹いたクラリネットも効果的に挿入されている。
05DON'T SAY NOTHING
シンプルなバンド・サウンドをバックに、パティがポエトリー・リーディングよりもむしろラップに近いヴォーカルを披露する。眼の前で行なわれた殺戮に対して見て見ぬふりをする人々への異議申し立て。「行動を起こそう/やるべきことやろう」とも歌われている。
06DEAD CITY
ノイジーなギター・バンド・サウンドをバックに歌われる「死んだ街」の歌。「死んだ街が自由になりたいと望んでいる」という発想が面白い。擬人化された街の嘆き。ここでの問題は環境破壊よりもむしろ精神破壊。精神を病んだ人間たちが街を殺している。
07BLUE POLES
マウスハープやペダル・スティール・ギターをフィーチャーしたメランコリックなバラード。アンプラグドな演奏をバックに、娘から母への手紙という設定で悲惨な状況が歌われる。まるで核戦争後の世界だが、こういった状況に陥る可能性は誰にでもある。
08DEATH SINGING
アコギの弾き語りをベースにした悲壮なバラード。背後のノイジーなエレキ・ギターとヘヴィなリズム・セクションが効いている。パティの歌声は勇ましいが、歌詞には不吉な言葉が多く、繰り返されるフックの一節は「死が歌っているのを聴いたことがあるか?」。
09MEMENTO MORI
スタジオでの即興演奏をライヴ録音した曲。故フレッド・スミスの友人だったパイロットのジョニーの死が歌われている。リズム・セクションがビートを刻み、ツイン・リード・ギターが泣き喚き、パティのポエトリー・リーディングは徐々に白熱していく。10分を越える熱演。
10LAST CALL
米国のカルト教団ヘヴンズ・ゲイトの集団自殺に触発されて書かれたバラード。アコギをフィーチャーしたアンプラグドなロック・サウンドとパティの変幻自在のヴォーカルが心地よく響く。R.E.M.のマイケル・スタイプがバックグラウンド・ヴォーカルで参加している。