ミニ・レビュー
ブルース・スプリングスティーンの78年作。73年のデビュー時にはボブ・ディランのフォロワー的な扱いだった彼が、前作『明日なき暴走』(75年)でロック・スターとしての地位を固めた後に、3年のブランクをおいて発表された、初期ステージ・パフォーマンスを代表する作品だ。
収録曲
01BADLANDS
自分自身への応援歌のような曲。力強いバンド・サウンドをバックに、状況はあまり良くないが、それでも「俺は希望を信じている」とスプリングスティーンはここで歌っている。前作『明日なき暴走』からの3年間の辛いブランクを埋めたパワフルな復帰作。
02ADAM RAISED A CAIN
父親との関わりについて初めて歌った曲。燃え上がるようなバンド・サウンドと力強いコーラスをバックに、父親をアダムに、息子をケインにたとえ、父親のようにはなりたくない、という息子の強い思いが歌われている。フィクションの中のリアルがここにはある。
03SOMETHING IN THE NIGHT
スプリングスティーンの唸り声から始まるバラード。“夜の精霊”にとり憑かれているかのように夜の情景にこだわり続けた彼の夜の歌のひとつ。悲劇的なエンディングが訪れる曲だが、言葉にならない唸り声や叫び声が歌詞よりも重要な意味を持っている。
04CANDY'S ROOM
一風変わった熱烈なラブ・ソング。アップ・テンポで16ビートを刻むハイハットとピアノのリフをバックにスプリングスティーンが呟くように歌い始め、エキセントリックなギター・ソロを経て、終盤のクライマックスへと到る。主人公の興奮が伝わってくるような勢いが魅力。
05RACING IN THE STREET
路上レースに熱中する男の独白を歌ったバラード。その楽しさをピアノをバックに歌われるが、その歌声はどこか寂しげ。レースで手に入れた妻が登場する場面ではひっそりとした寂しささえ漂う。歌い終えた後のインストゥルメンタル・パートの余韻は深い。
06THE PROMISED LAND
マウスハープをフィーチャーしたフォーク・ロック調のサウンドをバックに、「俺は約束の地を信じている」と歌われるバラード。陽気なサウンドとは裏腹に、切羽詰まった状況と爆発寸前の感情が歌われているが、前述した最後の一節がすべてを引き受けている。
07FACTORY
工場で働く父親の「働くだけの人生」を歌ったバラード。ピアノとオルガンをフィーチャーしたフォーク・ロック調のサウンドをバックに「耳が聞こえなくなっても、生きるために働く」と歌われる。歌詞を歌い終えた後のハミングがひどく重く、そしてリアルに感じられる。
08STREETS OF FIRE
オルガンをバックに苦しげにうめくように歌い始められる曲。契約に関わる問題で活動停止を余儀なくされていた時期の、彼の苦しみを想像させるような歌詞。ギター・ソロは破壊的なまでにパワフルだが、苦しげな歌声は捨て鉢に近い叫びへと変わっていく。
09PROVE IT ALL NIGHT
10DARKNESS ON THE EDGE OF TOWN
同題のアルバムのテーマを凝縮したようなタイトル曲。スプリングスティーンらしい階級意識を背景にした歌詞だが、金も妻も失い、最後の賭けに挑もうとしている男への共感はそんなものを超えている。すべての責任を引き受けるだけの覚悟がここにはある。