ガイドコメント
ジャニスの名をロック・ファンに知らしめた1968年フィルモアでのステージを収めた不滅のライヴ・アルバム。R&B、ブルース、ジャズなどのフィーリングを比類なきヴォーカルで披露した傑作だ。
収録曲
01COMBINATION OF THE TWO
ビル・グレアムのアナウンスや観客の歓声が挿入されているが、実際にはライヴではなくスタジオ録音。バンドの演奏も悪くはないが、ジャニスが歌う“wow wow”と“knock you,rock you,gonna sock it to you now”がすべて。これだけで100万ドルの価値がある。
02I NEED A MAN TO LOVE
ライヴ仕様のスタジオ録音によるジャニスとサムの共作曲。ジャニスのハスキーな歌声が恐ろしくセクシーに響くブルース・ロック。彼女のヴォーカルを聴かせるためにギター・ソロも控えめ。コーラスとの掛け合いで徐々に昇り詰めるパートなど、聴きどころも多い。
03SUMMERTIME
ガーシュインの名曲のカヴァー。バッハの「インヴェンション」を引用したツイン・リード・ギターもよく知られているが、何といってもジャニスの破格のヴォーカルが絶品。ガーシュインの曲とは同題異曲かと思う人も少なくないという、世紀の熱唱が聴ける。
04PIECE OF MY HEART
アーマ・フランクリンのヒット曲のカヴァー。ビッグ・ブラザーのヴァージョンはロック的なアレンジによるもので、ジャニスのシャウトもよりアグレッシヴ。ギター・バンド・サウンドの限界が彼女の歌声のパワーをさらに増幅させている。全米チャート12位のヒットを記録。
05TURTLE BLUES
バーのノイズを挿入したオリジナル・ブルース曲。ピアノ、アコギ、ベースによるアンプラグドなアレンジで、ジャニスは「あたしは甲羅の下に隠れた亀みたい」と歌う。彼女自身の過去と現在を歌った自伝的な歌詞で、終盤には“Janis”という名も登場する。
06OH, SWEET MARY
メンバー全員で書いたインストゥルメンタル主体のオリジナル曲。変則的なジャングル・ビートに乗って、長いギター・ソロが披露される。ジャニスのヴォーカルは序盤と終盤に登場するが、内容はコーラスに近い。擬似ライヴ盤の雰囲気を楽しむための1曲。
07BALL AND CHAIN
ビッグ・ママ・ソーントンの名曲のカヴァー。1967年のモンタレー・ポップ・フェスで同業者も含む観客を驚愕させたジャニスの熱唱がスタジオ録音版で堪能できる。この曲での彼女のソウルフルな歌声は、極上のスリルとサスペンスを聴き手に体験させてくれる。
08ROADBLOCK
『チープ・スリル』のアウト・テイク。ア・カペラに近いコーラスから始まり、アップ・テンポの2ビートで“Roadblock”をシャウトし続け、さらに即興的なパフォーマンスへと突入する。当時のビッグ・ブラザーの自由気ままな姿勢を象徴するようなオリジナル曲。
09FLOWER IN THE SUN
『チープ・スリル』のアウト・テイク。ジャニスは自由に歌っているようにも思えるが、歌詞が多いので、少し窮屈に感じる瞬間もある。ジャニスが歌えば何でも名曲になってしまうので気づき難いが、曲自体がやや弱いのかもしれない。しかし、歴史的に貴重な記録。
10CATCH ME DADDY
68年3月2日、デトロイトのグランディ・ボールルームでのライヴ録音。メンバー全員の共作によるアップ・テンポのR&Bソング。黒人ソウル・シンガーたちと同様の編曲によるこのライヴ・トラックを聴けば、当時のジャニスがどんな存在だったのかがよくわかる。
11MAGIC OF LOVE
マーク・スポールストラの曲をカヴァー。ゴスペル調のブルース・ロック・サウンドをバックに、ジャニスらしい饒舌なヴォーカルを聴かせる。バンドの演奏力の限界を超えたパフォーマンスを披露する彼女の歌声に先導され、メンバーも良いプレイを聴かせてくれる。