ガイドコメント
フレディの手によるアラブ風の楽曲で幕を開ける78年の7作目。70年代のクイーンならではのサウンドを総決算し、80年代に向けてバンドの新しい方向性を打ち出した実験作。
収録曲
01ムスターファ
“イ〜ブラヒ〜ム”というフレディの雄叫びから始まる曲。クイーンならではの胡散臭い中近東ロックがうれしい。フレディの出自も利用した“エンタテインメント命”の彼らだからこその贅沢なフェイク。何を歌っているのか、よくわからない歌詞も最高。
02ファット・ボトムド・ガールズ
ア・カペラのゴスペル風クワイアから始まる、ストーンズを彷彿とさせるロックンロール。下品で低俗な歌詞を真正クイーン・サウンドでゴージャスに飾り立ててみせるところがいかにも彼ららしい。歌詞が“下品なストーンズ”なら、サウンドは“上品なストーンズ”か。
03ジェラシー
“嫉妬”をモチーフにしたフレディのバラード。ピアノの弾き語りからリズム・セクションが加わり、分厚いコーラスもヴォーカルをサポート。ブライアンの愛器“レッド・スペシャル”による擬似ストリングスなど、サウンドの細部も凝っている。
04バイシクル・レース
05うちひしがれて
ジョンの曲の中ではややロック寄りのポップ・ソング。キャッチーなギター・リフが先導する曲で、AOR系の米国製ロックをクイーンがやってみた、という印象もある。これで歌詞も甘口だったらシラケるかもしれないが、実際には辛口でシビア。
06レット・ミー・エンターテイン・ユー
フレディ主導の劇的なロックンロール。音楽的には大袈裟な表現で笑いを誘い、歌詞にもコミカルな表現を詰め込んでいるが、ここで彼らはこのバンドの基本的な姿勢を改めて明らかにしている。つまり、クイーンのエンタテインメント宣言。
07デッド・オン・タイム
ブライアンの多彩なギター・ワークが堪能できる超アップ・テンポのロックンロール。早口言葉みたいな歌詞も楽しいが、早回しのような演奏も面白い。終盤にはさらに加速して……。エンディングまで聴き手を飽きさせない鮮やかな展開が魅力。
08セヴン・デイズ
極上のメロディが堪能できるバラード。フレディの美声にはジョンのキャッチーなメロディがよく似合う。ブライアンのギターによる流麗なストリングスが効果的に使われている。たった一週間で終わってしまう恋愛を描いた歌詞も楽しい。
09ドリーマーズ・ボール
女性の立場から歌われるドリーミーなラブ・ソング。ギターとヴォーカルによって奏でられる擬似ホーン・セクションをフィーチャーしたジャジィなサウンドをバックに、フレディがひたすら甘く優しくセクシーに歌ってみせる。
10ファン・イット
ロジャー流のファンク・ロック。流行のディスコ・ミュージックを意識したのか、あるいはニューウェイヴに触発されたのか、デジタル時代の到来を予告するようなドラム・サウンドが印象的。トレンドに敏感なロジャーらしい意欲作。
11去りがたき家
ブライアンが歌うバラード。ブライアンのヴォーカル、アコギやストリングスの使い方、サイケデリックなエフェクトなど、ジョージ・ハリスンを思わせる“マスト・パス”なサウンドが楽しめる。ジョージのファンも一度は聴いておいたほうがいいかも。
12ドント・ストップ・ミー・ナウ
13モア・オブ・ザット・ジャズ
ロジャーが歌うニューウェイヴ仕様の曲。終盤には『ジャズ』収録曲のサウンド・コラージュがフラッシュバック感覚で挿入され、「そんな馬鹿騒ぎはもういいよ」というオチでエンディング。クイーンならではのユーモアのセンスを感じさせるギミックだ。