ガイドコメント
『オペラ座の夜』で確立したクイーンのロックが完成度を増し、さらに深みと大衆性を身につけた1976年の5作目。クラシック・テイストの楽曲からゴスペル風ナンバーまで、作曲の才能が冴える。
収録曲
01タイ・ユア・マザー・ダウン
『華麗なるレース』巻頭を飾るクイーン流ブギ。ギター・オーケストレーションによる東洋的なイントロからブギへと突入し、フレディが「お前の母親を縛りつけて」などと歌う。暴力を予感させる怖い歌詞だが、サウンドも暴力的なまでにハード・ロッキン。
02テイク・マイ・ブレス・アウェイ
ア・カペラのコーラスで幕を開けるフレディのバラード。ピアノの弾き語りを基調にしたもので、コーラスとの絡みも美しい。終盤、これから劇的に展開させるのかと思わせながら唐突に終わる。フレディにしては珍しく淡白なエンディング。
03ロング・アウェイ
ブライアンが歌うフォーク・ロック調の曲。やや明快すぎるくらいに明快な歌詞とメロディ。肩透かしを喰うほどにストレート。英国的というよりもむしろ米国的なサウンドだが、こういったタイプの曲が必要だと考えた彼の判断は理解できる。
04ミリオネア・ワルツ
この曲名でフレディが歌うのなら金持ちの歌だと思うだろうが、違う。音楽と愛があれば、そして君がいれば「僕は金持ちみたいな気分」と彼は歌う。ピアノの弾き語りから幾度かの劇的な変化を経て最後にはコーラスを引き連れてエンディングへと雪崩れ込む。
05ユー・アンド・アイ
ジョンが書いた彼らしいポップ・ソング。キャッチーなメロディ、心地よいコード進行、軽快なビートはビートルズを思わせる。ストレートにプレイしても佳作だろうが、転調やリズム・チェンジもあり、編曲も凝っていて、大いに楽しませてくれる。
06愛にすべてを
フレディ主導のクイーン流ゴスペル・ソング。フレディのソウルフルなヴォーカルとゴスペル風クワイアが親密に絡み合いながらピークへと昇り詰めていくプロセスが素晴らしい。全英チャートでは2位、全米チャートでは13位のヒットを記録した。
07ホワイト・マン
ブライアン主導によるクイーン流ブルース・ロック。侵略者の白人に対して先住民族の立場から訴える歌詞は重い。クイーンなら重すぎることはないが、それでも決して軽くはない。みずからの絶頂期にこの曲を発表した勇気には敬意を表したい。
08懐かしのラヴァー・ボーイ
フレディが書いた一風変わったラブ・ソング。十八番のボードヴィル調の曲だが、さまざまな工夫や仕掛けを散りばめたユニークなサウンドはもはや“クイーン調”と呼ぶべきかも。最初から最後まで大いに楽しませてくれる3分弱の素敵なポップ・ソング。
09さまよい
ロジャーが歌うロッカ・バラード。ファルセットを多用した歌声とスライド・ギターが独特の雰囲気を醸し出す。このサウンドもクイーン版“音の壁”の一種。自伝的なタッチの歌詞が実際に自伝的なのかどうかはともかく、彼にはよく似合っている。
10手をとりあって
熱狂的ファンを生んだ日本への感謝の意を込めて、日本のみでシングル・カットされた曲。哀愁色濃い前半から、清らかで洗われるようなメロディを日本語を交えて歌う。