ガイドコメント
1971年に発表された、ジャニス最後のスタジオ・レコーディング作品。プロデューサー、ポール・ロスチャイルドとのセッションを通じて、その可能性をさらに広げつつあった未完の傑作。
収録曲
01MOVE OVER
ジャニスの代名詞のような名曲。シンプルなサウンドでもすべてを表現できる理想のバンドを得て、さらに自分の歌声を自由自在にコントロールする方法を獲得したジャニスが見事なヴォーカルを披露している。その後、この曲は多くのカヴァーを生んだ。
02CRY BABY
ガーネット・ミムズのヒット曲のカヴァー。のっけからジャニスが壮絶なシャウトを披露し、自分の世界へと聴き手を引きずり込む。余分な音のないシンプルなバッキング・トラックも見事だが、余分なフェイクのないジャニスの剛柔自在のヴォーカルも素晴らしい。
03A WOMAN LEFT LONELY
ダン・ペンとスプーナー・オールダムが書いた名曲。過不足のないバンドの演奏をバックに、メロディと歌詞を噛みしめるように歌うジャニス。光り輝く名曲ばかりのアルバム『パール』の中では地味な印象の1曲だが、実は感動的な名唱のひとつと言われている。
04HAIF MOON
のちにオーリアンズを結成するジョン・ホールが書いた名曲。複雑な編曲でも軽やかにプレイできる凄腕バンドの細心で大胆な演奏に乗って、ジャニスもこの難曲を鮮やかに歌いこなしている。荒馬を乗りこなすカウボーイのようにジャニスが歌う。
05BURIED ALIVE IN THE BLUES
親友ニック・グレイヴナイツがジャニスのために書いた曲。この曲のヴォーカル・トラックの録音を翌日に控えた1970年10月4日、モーテルの部屋でジャニスは27年間の生涯に幕を降ろした。これは彼女に取り残された、秀逸なインストゥルメンタル・トラック。
06MY BABY
ゴスペル調のR&Bを書かせたら世界一のジェリー・ラゴヴォイの曲。まるで自分のために書かれた曲のようにジャニスは歌っている。これこそが自分の曲だと感じたのか、彼女は歌詞の一節に“Janis”を加えている。“My baby”のシャウトは今でも新鮮に響く。
07ME AND BOBBY MCGEE
一時的には恋人でもあったクリス・クリストファーソンが書いた名曲。洗練されたアコースティック・サウンドをバックに、メロディと歌詞をじっくりと味わうかのようにジャニスが歌う。後半のスキャットも見事。彼女の死後、全米チャートで2週連続1位のヒットを記録した。
08MERCEDES BENZ
ビート詩人マイケル・マクルーアとの共作曲。「社会的にも政治的にも非常に重要な歌を歌うわよ」というジャニスのMCから始まるア・カペラの曲。メルセデスベンツとカラーテレビと夜の街を買って、と神様にお願いするジャニス流ゴスペル・ソング。
09TRUST ME
アコースティック・ギターで録音にも参加しているボビー・ウォマックの名曲。簡素だが滋味のあるサウンドに乗って、ジャニスが気持ちよさそうに歌っている。この曲をジャニスのベストに上げる人は少ないだろうが、彼女の名唱のひとつと言えるだろう。
10GET IT WHILE YOU CAN
ジャニス御用達のソングライター、ジェリー・ラゴヴォイの曲。ジャニスがメロディと歌詞を慈しむように歌い始めるゴスペル調のR&B。彼女ならではのフェイクが縦横無尽に暴れまわる終盤のクライマックスも圧巻。オリジナル・アルバムではラストを飾る1曲。
11TELL MAMA
突然の死を迎える3ヶ月前、1970年7月4日、カナダのカルガリー公演でのライヴ録音。憧れていたエタ・ジェイムズの曲をパワフルに歌うジャニス。ここでの彼女はとても元気だ。ラップばりの自伝的な語りを含む6分半の熱演。このときのライヴは映像も残っている。
12LITTLE GIRL BLUE
70年7月4日、カナダのカルガリー公演でのライヴ録音。「何年か前に偉大なニーナ・シモン(のヴァージョン)で聴いた曲」というジャニスのMCから始まるロジャース=ハートの名曲。スタジオ録音版よりも強く感情を込めたエモーショナルな歌声を聴かせてくれる。
13TRY (JUST A LITTLE BIT HARDER)
70年7月4日、カナダのカルガリー公演でのライヴ録音。『コズミック・ブルースを歌う』からの選曲で、コーラスとの掛け合いも含む7分近い長尺ヴァージョン。この曲が彼女のライヴにおける大切な1曲だったことがよくわかるパフォーマンスを披露している。
14CRY BABY
突然の死を迎える3ヶ月前、70年7月4日、カナダのカルガリー公演でのライヴ録音。制作中だった遺作『パール』からの選曲。即興の自伝的な語りを含む6分間の熱演。まさに絶唱と呼ぶにふさわしい、凄まじい歌声が聴ける。天国の彼女に拍手を送りたい。