ガイドコメント
92年9月発売の通算3枚目のフル・アルバム。よりロック色が濃くなり、ストレートなロックンロール・ナンバーも収録。「惑星のかけら」「日なたの窓に憧れて」がシングルでリリース。
収録曲
01惑星のかけら
耳を貫くようなヘヴィ&ラウドなリフの上に、不気味なまでに静かに展開していく“君”への欲望と妄想……。グランジ特有の仄暗い空気感に、正宗のシュールな詞世界が見事に溶け込んだ、初期のロック・ナンバーの傑作。
02ハニーハニー
恋を謳歌する無邪気な“二人”。この世に堕ちてきたアダムとイブを、ブルース調の乾いたリフに乗せて描き出す。重厚で、華麗で、どこか仄暗い……といったブリティッシュ・ロックの匂いも漂う、この時期のスピッツならではのサウンドだ。
03僕の天使マリ
“マリ”への想いが、軽快なリズムに乗って流れるように綴られる、ポップなカントリー・ナンバー。ボーイッシュな女の子が夜はセクシーに、そんなギャップに男心を掻きたてられるという草野マサムネらしい、キュートなエロスが描かれる。
04オーバードライブ
“かかっておいでよ、Oh yeah”という挑発で始まる男女のレスリング。つまりセックスを謳歌する、グルーヴィなロック・ナンバーだ。間奏で聴かれるなんとも陽気なサンバは、あたかも性の歓びを象徴するかのようである。
05アパート
慎ましくも幸せなはずの二人が、実は違う未来を見ていた、という切ない悲恋を綴った、四畳半フォークならぬ四畳半ロック。夢(=君)に取り残された“僕”の空虚な心情が、アルペジオの淡く儚い響きに浮かび上がる。
06シュラフ
まさに、眠りに落ちて行く過程で彷徨う幻覚状態のごとし。幻想的なムードが充満するギターの轟、その中を響き渡るはクールなジャズ・フルートの調べ。そんなアダルトなサウンドがスピッツらしからぬ、異色のスロー・ナンバーだ。
07白い炎
イントロに合わせて“この木なんの木”が、歌おうと思えば歌えてしまう、陽気なロック・ナンバーである。そんな親しみやすく天真爛漫なサウンドながら、マサムネ・ワールドの描き出すところは、セックスの圧倒的なエネルギー。
08波のり
ギターのカラリとしたリフが夏の開放感を演出する、爽やかなロック・ナンバー。サーフィンでなく、あえて“波のり”なのがスピッツ。“波のり=君の町への空想旅行”という発想も、らしい。スピッツ印がここかしこの、嬉しい名作。
09日なたの窓に憧れて
“君に触れたい”……、弱気な“僕”の憧れがひたすらリフレインし、広がっていくさまは、あまりに美しく切ない。ドリーミーなサウンドが完璧なまでに溶け合った、甘美で儚い正宗ワールドが展開する、スピッツならではの珠玉の恍惚系ロック。
10ローランダー、空へ
旅立ちの歌なれど、ここに漂うのは妙な疲労感と、モノクロームの美しさ。“羊の目をして終わりを待つコメディ”、そんな空虚な現実から、残った力を振り絞って飛び立とうとする、そんな瞬間をスローモーションで描くかのごとくだ。
11リコシェ号
三輪テツヤ作による、アルバム『惑星のかけら』の華麗なるエピローグ。閃光の速さで宇宙空間をドライヴするかのようなインスト・ナンバーだ。シューゲイザーの雄、ライドを彷彿とさせる、怒涛のごとく轟くスペーシーなサウンドは圧巻。