ミニ・レビュー
デビュー40周年記念限定紙ジャケ仕様。彼のワンマン演奏を主とした70年代4連作の3作目73年作。(3)(5)(8)はシングル・カットされ大ヒットしたが、(3)は短編映画のような7分半もの曲で、『トーキング・ブック』からの進歩をまた見せた。初のグラミー受賞 (5部門!)作。
ガイドコメント
彼の入門編に最適な不朽の名作が紙ジャケ化。3曲の全米トップ10シングルをはさんで、ドラマティックに盛り上がる曲展開が素晴らしい1枚。73年度グラミー賞最優秀アルバム賞を受賞。
収録曲
01TOO HIGH
ハイになり過ぎて死んでしまう「夢の恋人」について歌ったアンチ・ドラッグ・ソング。シンセサイザーを駆使したリズム・セクションやスリリングなスキャットのユニゾンがドラッグによる酩酊状態を表現し、スティーヴィーのファンキーな歌声をサポートしている。
02VISIONS
理想の世界について歌ったバラード。愛と平和の世界について歌いながら現実の厳しさや複雑さも充分に理解しているスティーヴィーのヒューマン・タッチの歌声が素晴らしい。デヴィッド・T・ウォーカー、ディーン・パークス、マルコム・セシルらの演奏も秀逸。
03LIVING FOR THE CITY
ファンキーなリズムに乗って歌われる強烈なプロテスト・ソング。ポップなアティテュードでシリアスなメッセージを伝えるスティーヴィーならではの傑作。ユーモアのセンスさえ感じさせる音楽的/詩的な表現の数々はまさに天才の仕事。全米8位のヒットを記録。
04GOLDEN LADY
甘美な歌声とキャッチーなメロディが聴き手を酔わせる熱烈なラブ・バラード。シンプルな曲だが、だからこそダイレクトに伝わる想いがある。エレクトリック・ピアノ、オルガン、パーカッションなどによる絶妙のアンサンブルが心地良く響く。
05HIGHER GROUND
輪廻転生について歌った名曲。クラヴィネットやワウ・ギターを駆使したファンク・ビートに乗って、この世界に生まれ変われた歓びが歌われている。作曲から録音までを3時間で仕上げたという天啓のような曲。全米4位のヒットを記録。
06JESUS CHILDREN OF AMERICA
宗教に対するスティーヴィーの考え方を表明した曲。コーラス陣との掛け合いを含むファンキーなR&Bソング。ここでの彼はキリストの苦難と母マリアの悲しみを歌い、現代のインチキ宗教家たちを皮肉り、子供たちの純真な心の中に未来への希望を見出している。
07ALL IN LOVE IS FAIR
恋の素晴らしさと失恋の辛さを歌った美しいバラード。ピアノの弾き語りを基調にしたメロウなサウンドとスティーヴィーの悲しげな歌声が心に染みる。妻シリータとの破局について歌ったものでもあるが、より普遍的な視点によるラブ・ソングに仕上げられている。
08DON'T YOU WORRY 'BOUT A THING
当時、流行する前のサルサを採り入れた斬新なポップ・ソング。イントロにプエルトリカンのラップを導入し、スペイン語の詞を効果的に使った発想や仕掛けはさすがスティーヴィー。10年後には早くもスタンダード化していたポピュラリティも含めて、まさに天才の仕事だ。
09HE'S MISSTRA KNOW-IT-ALL
信用できないビジネスマンについて歌ったバラード。ポップ・ソングになりにくい主題を見事なポップ・ソングで仕上げている。淡々と歌う前半も魅力的だが、ゴスペル風に盛り上がる後半の展開も圧巻。ヴォーカリストとしての彼の力量を改めて思い知らされるナンバー。