ガイドコメント
73年発表のソロ5作目。クルセイダーズをバックに当時のアメリカの社会問題に正面から向き合ったコンセプト・アルバム。ラテン・タッチの「コラソン」など、新境地を開拓した意欲作だ。
収録曲
01FANTASY BEGINNING
コンセプト・アルバムの開幕を告げるオープニング・ナンバー。ピアノとベースをバックに、自分が考えていることを理解してもらうために“ファンタジー”の手法を選択した、と歌っている。その世界では彼女は黒人や男性にもなれるのだ、という親切な解説付き。
02YOU'VE BEEN AROUND TOO LONG
発表当時、キャロルのフェミニズム宣言として話題になった曲。ストリングスやホーン・セクションを導入したニュー・ソウル調のサウンドをバックに「私は私でいたいから変えようとしないで」と歌っている。音楽的にも彼女が新たな一歩を踏み出した意欲作。
03BEING AT WAR WITH EACH OTHER
人は皆、兄弟や姉妹なのだから、醜い争いを繰り返すのはやめよう、と訴えるバラード。エスニックなリズムとドラマティックなストリングスをバックに、ストレートなメッセージが歌われる。キャロルの真摯な歌声も素晴らしいが、サポートするプレイヤー陣も好演。
04DIRECTIONS
ストリングスやホーン・セクションを導入したニュー・ソウル調のサウンドに乗って、苦しんでいる人たちの自尊心を奪い取る連中を告発するプロテスト・ソング。心地よいサウンドに酔って、歌詞のメッセージ性を忘れそうになるものの、音楽的には興味深い試み。
05THAT'S HOW THINGS GO DOWN
身ごもった女性が何らかの理由で遠く離れた場所にいる男性に「早く会いたい」と願う曲。コーラスやオルガンをフィーチャーしたR&B調のサウンドをバックに、揺れ動く女心を象徴するようなヴォーカルを聴かせる。微妙なニュアンスを伝える歌声が印象的。
06WEEKDAYS
ストリングスやホーン・セクションをフィーチャーしたファンキーなサウンドに乗って、平凡な主婦の日常や失われた夢が歌われる。若い頃の夢を思い出し、失ったものの大きさに愕然としながらも、再び予定調和の世界へと戻っていくエンディングが哀しい。
07HAYWOOD
悪い仲間と付き合っている男に忠告する歌。キャロルの歌声も不安や疑念を感じさせるが、不穏なストリングスや刺々しいホーン・セクションも男が陥っている危険な状況を象徴している。ハーヴィ・メイスンらによるリズム・セクションのスリリングな演奏も秀逸。
08A QUIET PLACE TO LIVE
穏やかだが毅然とした態度で歌われるR&B調のバラード。「静かに暮らせるところが欲しいだけ」というメッセージが切実に響く。歯切れのよいタイトなリズムとジェントルなストリングスとの組み合わせが絶妙。シンプルな歌だからこそのパワーがここにはある。
09WELFARE SYMPHONY
教会音楽風のオルガンのイントロから始まる曲。ホーン・セクションをフィーチャーしたファンク調のサウンドに乗って、多くの子供を抱えたシングル・マザーの苦悩が歌われる。終盤のドラマティックな展開も含めて、インストゥルメンタル・パートのテンションも高い。
10YOU LIGHT UP MY LIFE
愛し合う相手がいることの幸せを歌ったラブ・バラード。流麗なストリングスと陽気なホーン・セクションをバックに、キャロルが歓びにあふれた歌声を披露している。シリアスな曲調の多いアルバム『ファンタジー』の中では砂漠の中のオアシスのような異色の1曲。
11CORAZON
スペイン語で歌われる熱烈なラブ・ソング。ホーン・セクションをフィーチャーしたサンタナばりの躍動感あふれるラテン・ロック・サウンドを聴かせてくれる。スペイン語詞のラテン・ロックではキャロルの曲とは思えないが、シングルは全米37位のヒットを記録。
12BELIEVE IN HUMANITY
ホーン・セクションとストリングスをフィーチャーしたダイナミックなファンク・サウンドをバックに「人間性を信じたい」と歌われる曲。サウンドの屋台骨を支えるハーヴィ・メイスンとチャールズ・ラーキーのリズム・セクションが秀逸。全米28位のヒットを記録した。
13FANTASY END
コンセプト・アルバムの閉幕を告げるクロージング・ナンバー。ピアノとベースだけをバックに「このアルバムで聴いたことを心に留めておいて欲しい」と歌っている。そして「いつか私たちの現実が夢の国と同じくらい良い場所になるかもしれない」とも。