ガイドコメント
ザ・ハッスルズ、アッティラと不遇のバンド時代を経て、ロサンゼルスでレコーディングされた71年のソロ・デビュー・アルバム。ブレイク前の22歳のビリーの素朴で初々しい歌声が楽しめる。
収録曲
01シーズ・ガット・ア・ウェイ
02ユー・キャン・メイク・ミー・フリー
ポール・マッカートニーを思わせるラブ・バラード。ピアノの弾き語りで穏やかに始まるが、徐々に楽器が増えていき、中盤以降は賑やかすぎるくらい。オーヴァ-・プロデュースは初期作品の特徴のひとつだが、過剰な編曲を好む者にとっては欠点にはならない。
03エブリバディ・ラブズ・ユー・ナウ
性急なまでにアップ・テンポなピアノのアルペジオをバックに、ビリーが意外にゆっくりと歌い始める。スターになろうとしている女性に語りかける、という設定の歌詞も良いが、クイーンのフレディが歌っても似合いそうなメロディとサウンドが面白い。
04ホワイ・ジュディ・ホワイ
アコースティック・ギターの伴奏で歌われるラブ・バラード。ピアノに慣れているせいか、ビリーの歌声とアコギとの組み合わせが新鮮に響く。目立たないよう、控えめに背後に流れる浮雲のようなストリングスもいい。若きビリーの瑞々しい歌声もチャーミング。
05フォーリング・オブ・ザ・レイン
速いテンポのピアノのアルペジオとドリーミィなサウンドとの対比が鮮やかな曲。おとぎ話とラブ・ソングを合体させたような歌の世界が面白い。時間の不思議さを感じさせる曲でもあるが、この世界を追求していったらプログレになってしまうかもしれない。
06ターン・アラウンド
初期のエルトン・ジョンを思わせるラブ・バラード。自分だけの個性を探していた若きビリーの試行錯誤のプロセスのひとつ。ここから「オネスティ」までなら数歩で辿り着けそうにも思えるが、実はここからが長い道程。だけど、これはこれで魅力的な曲。
07ユー・ルック・ソー・グッド・トゥ・ミー
オルガンとピアノとマウスハープをフィーチャーした曲。良いメロディだが、過剰なまでに賑やかなサウンドがそのメロディと衝突している。オルガンとピアノだけでも充分に賑やかなのに、さらにマウスハープを加える過剰な編曲は初期のビリーの特徴のひとつ。
08トゥモロウ・イズ・トゥデイ
ピアノの弾き語りで歌われるラブ・バラード。“明日は今日”というネガティヴな発想が面白い。自殺寸前の男が歌う最後のラブ・ソング、というきわどい設定が成功しているかどうかは微妙なところだが、途中で唐突に声を変えるビリーならではの技は楽しい。
09ノクターン
ビリーのピアノをフィーチャーしたインスト曲。アルバム『コールド・スプリング・ハバー』ではこの曲の前後の「トゥモロー・イズ・トゥデイ」と「ゴット・トゥ・ビギン・アゲイン」との間奏曲の役割を果たしている。哀しいドラマの挿入曲のような“夜想曲”。
10ガット・トゥ・ビギン・アゲイン
ピアノの弾き語りで歌われる感動的なバラード。「明日を夢見るあまり今日を犠牲にしてきた」男が「再び始める」ことを決意する。さまざまな音楽からの影響を感じさせる曲だが、未来の可能性がここにはある。1stアルバムの最後を飾るにふさわしい曲。