ガイドコメント
1960年代後期に彗星のごとく現れた不朽のアメリカン・ロック・バンド、ドアーズが、1967年に発表した2ndアルバム。ラディカルなスタイルはそのままに、桁違いに優れたサウンドでサイケデリックな芸術性をいっそう深めた傑作。
収録曲
01ストレンジ・デイズ
同題のアルバムのタイトル曲。オルガンの透明な音色が聴き手をすぐそこにある異世界へと誘う。“向こう側”から聴こえるようなモリソンの歌声もやけに親しげに響く。現実と幻想が実は同じものであることを改めて思い知らせてくれる曲。
02迷子の少女
怖いほど美しい曲。誘拐とか虐待とか強姦とかいう類の言葉を想起させる不道徳な歌詞をこれほどまでに美しく歌える男は他にいない。クリーガーのリリカルなギター・ソロをはじめ、エコーの海の底で奏でているかのような、幻想的なサウンドも美しい。
03ラヴ・ミー・トゥー・タイムズ
「ハートに火をつけて」と「バック・ドア・マン」との間に生まれた放蕩息子のような曲。性的な暴力を予感させるモリソンの歌声が「二度、愛してくれ」と執拗なまでに迫る。ハープシコードのカラフルな音色もこの曲の不埒な暴力性をより強調している。
04アンハッピー・ガール
不幸な箱入り娘をそそのかす唄。より肯定的な解釈も可能だが、ドアーズには似合わない。モリソンの優しげな歌声には邪心がないはずはない。テープの逆回転を利用したサイケデリックなサウンドもこの曲の不道徳なニュアンスを助長している。
05放牧地帯
モリソンのポエトリー・リーディングとノイジーなサウンド・コラージュを組み合わせた実験的な試み。演劇的なまでに劇的な彼の朗読は、“焼き印を押される”のが“仔馬”などではなく“人間の子供”あるいは“小悪魔”でもあるかのように感じさせる。
06月光のドライヴ
マンザレクのピアノに合わせて詩を朗読するように歌い始めるモリソンのヴォーカルにクリーガーの妖しいペダル・スティール・ギターが絡みつく。この曲の歌詞は、バンド結成前にモリソンがマンザレクに初めて披露した詩が基になっている。
07まぼろしの世界
ドアーズの独創性を凝縮したような曲。上品なチェンバロ風の調べに乗ってモリソンは呟くように「孤独な時、人びとの顔は醜く見える」などと歌う。ロックの王道から逸脱した歌詞とメロディとサウンド。さらに奇妙なユーモアのセンスもここにはある。
08マイ・アイズ・ハヴ・シーン・ユー
ストーカー行為を連想させる曲。緊張感を孕んだサウンドとシンプルな歌詞の反復が不吉な予兆を確信に変化させる。同様にピアノをフィーチャーしたロックンロールでも、ストーンズの不埒な「夜をぶっとばせ」が可愛らしく思えるほどアンモラル。
09おぼろな顔
琴やゲイシャハウスをイメージしたという擬似“日本”的なサウンドとモリソンのいつになく柔らかな歌声。薄情な浮気男の唄だが、記憶喪失の唄のようにも聴こえる。ロマンティックに感じられるとしたら、彼らがイメージする“日本”のせいかもしれない。
10音楽が終ったら
「ジ・エンド」の姉妹作とも言える11分に及ぶ大作。“音楽は君の特別な友達”が主題なら、「ジ・エンド」のように不道徳な曲ではないと思われるかもしれないが、妹を切り裂いたり世界を欲しがったりもしているようだから、あまり道徳的な曲ではない。