ガイドコメント
ジム・モリソンの夭逝により幕を閉じるドアーズが、1971年に遺した通算6枚目のラスト・アルバム。偶像崇拝を嫌ってアメリカに別れを告げた自伝的な歌詞が、ヒット・シングルに起伏を与えた最高傑作。
収録曲
01チェンジリング
不気味な歌詞が印象的な曲。ヘヴィなブルース・ロック・サウンドに乗って、荒々しく吠えるモリソンが楽しめる。原点回帰だが、初期のサウンドに戻ったわけではなく、70年代仕様の新たなバンド・サウンドを披露しているところがポジティヴ。
02ラヴ・ハー・マッドリー
新生ドアーズを象徴するシングル曲。タイトに引き締まったバンド・サウンドに馬乗りになったモリソンが“彼女”を愛している“彼”の恋心を煽る。R&B調のロックンロールだが、決して熱くなることなくクールに歌うモリソンがイカしてる。
03ビーン・ダウン・ソー・ロング
牢獄に閉じ込められている男が自由を求めて叫ぶブルース曲。ミディアムのシャッフル・ビートに乗って、モリソンが吠え、スライド・ギターが唸りを上げる。助演のギタリスト、マーク・ベノが先輩クルーガーを相手に健闘している。
04カーズ・ヒス・バイ・マイ・ウィンドウ
ミディアム・スローのブルース曲。ホラー・ストーリー風の歌詞を唸るように歌うモリソンはもはやオールド・ブルースマンの風格さえ漂わせている。実際の年齢よりも早く老成した彼は当時、すでに晩年を生きていたのかもしれない。
05L.A.ウーマン
同題のアルバムのタイトル曲。実際に車に乗っているかのような感覚を体験させてくれるタイトな演奏に乗って、一瞬で通り過ぎてしまう夜の街路のドラマの数々を見事に掬い上げてみせる“Mr.Mojo risin'”モリソンの歌声の速度と強度は圧巻。
06ラメリカ
ホラー映画のサントラのようなイントロとマーチング・ドラムから始まる変則的なブルース・ロック・チューン。シャッフルへのリズム・チェンジが楽しい。モリソンが歌う「ラメリカ」のリフレインはまるで呪文のように不気味に響く。
07ヒアシンスの家
明るく乾いたタッチの曲だが、モリソンがクールな低音ボイスで淡々と歌っているために奇妙な印象を与える。「俺の邪魔をしない新しい友達が欲しい」という歌詞の一節が彼にはよく似合う。シンプルだが、実は細部が凝っているサウンドも心地よい。
08クローリング・キング・スネイク
ジョン・リー・フッカーのブルース・クラシックをカヴァー。シャープでタイトな演奏も秀逸だが、モリソンの吹っ切れたような歌声がいい。キャリアを経たミュージシャンたちが大いに楽しみながらブルースをプレイしている様子が伝わってくる。
09テキサス・ラジオ
ドアーズにはシャッフルがよく似合うと改めて思い知らせてくれる曲。トーキング・ブルース形式でモリソンが“テキサス・ラジオとビッグ・ビート”についての法螺話を披露する。テキサスからピラミッドやファラオやアフリカへと話がぶっ飛んでしまうところが面白い。
10ライダーズ・オン・ザ・ストーム
ドアーズの最期を飾るスワン・ソング。マンザレクの透明なエレクトリック・ピアノ、クリーガーの詩的なギター、デンズモアの繊細なドラミング、そしてモリソンの悟りきったような歌声。極上の演奏による最高の曲。すべてが一幅の名画のように美しい。